中岳温泉

中岳温泉（なかだけおんせん）

中岳温泉は、北海道上川郡東川町に位置する、大雪山旭岳の山系、中岳の中腹部に湧出する野趣あふれる温泉地です。人の手がほとんど加わっていない、文字通り自然の中に存在する温泉として知られています。

泉質

泉質の特徴は、鼻をくすぐる硫黄の香りです。源泉から湧き出る湯は非常に温度が高く、そのまま入浴するには熱すぎます。そのため、温泉の傍らを流れる雪渓の冷たい沢水を引き込み、湯温を適切に調整することでようやく入浴が可能になります。これは、シャベルなどで湯の流れ道を作る、野湯ならではの原始的な方法で行われます。

温泉地

温泉施設としての設備は一切ありません。かつて誰かが掘ったとされる湯船と、そこへ至るための登山道のみが、人が関わった痕跡です。着替えを置く場所としては、湯船のすぐ横にある岩場を利用するしかありません。周辺の環境は、ハイマツが密生し、ツガザクラなどが咲き誇る美しい高山植物の花畑が広がっており、壮大な自然景観の中で入浴できます。この純粋な自然環境と、到達するまでの道のりの大変さから、本格的な秘湯として、登山者やアウトドア愛好家から高い関心を集めています。

ただし、自然の中の温泉ゆえ、注意すべき点も多くあります。特定の季節によっては、長時間の入浴は避けるべきです。特に夏場など、時期によってはアブが大量に発生することがあり、人の気配や体温に集まってくるため、裸での入浴はアブに対して無防備な状態となります。また、この地域はヒグマの生息地帯でもあります。そのため、入山にあたっては、熊除けの鈴を携行するなど、ヒグマとの遭遇に備えた十分な対策を講じることが不可欠です。自然の恵みを享受するためには、自然の危険性も理解し、適切な準備と行動が必要です。

アクセス

中岳温泉へのアクセスは、容易ではありません。一般的なルートの一つは、まず旭川市街からバスに乗車し、約1時間10分かけて旭岳温泉へ向かいます。そこから旭岳ロープウェイに乗車し、姿見駅で下車。その後、徒歩でさらに約2時間の道のりを進む必要があります。このアクセス道は「裾合平」と呼ばれる広大な高原地帯を通過します。この道中は、右手には秀麗な旭岳の山容を望みながら、チングルマをはじめとする高山植物が咲き乱れる美しい花畑の中を歩く、変化に富んだ魅力的なトレッキングコースとなっています。もう一つのルートとしては、間宮岳から中岳への縦走途中にある中岳分岐から、西方向へ下るルートを利用する方法もあります。いずれのルートも、ある程度の登山経験や準備が必要です。

（参考文献: 伊藤健次『北海道の山』（山と渓谷社、2017）など）

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