中心軸システム

中心軸システムは、ハンガリーの音楽学者レンドヴァイ・エルネによって提唱された、音楽理論における革新的な概念です。この理論は、特にバルトークの音楽に見られる独特の音組織を説明するために考案され、従来の機能和声法の枠組みを拡張するものです。

レンドヴァイは、1955年に出版された著書『Bartók Stilusa』の中で、この理論を詳細に解説しました。中心軸システムの核心は、西洋音楽の12音を、単なる音の羅列としてではなく、調的な機能を持つ音の集合として捉える点にあります。この理論は、しばしば「機能転移」とも呼ばれます。

中心軸システムの基本

西洋音楽の音律において、1オクターヴには12のピッチクラスが含まれます。中心軸システムでは、これらの12の音を、完全5度の関係にある順に円形に配置します。この配置は、時計の文字盤のように捉えることができます。このとき、十字軸を形成する各音は、カデンツにおいて同じ機能を持つとされます。興味深いことに、完全5度ではなく、半音ずつ順に配置しても、結果として同じ機能グループが得られます。

伝統的な西洋音楽の理論では、C（またはC）を根音とする和音をトニカ（主音）、G（またはG）を根音とする和音をドミナント（属音）、そしてF（またはF）を根音とする和音をサブドミナント（下属音）と定義します。しかし、中心軸システムでは、これらの機能を、1オクターヴを3等分することで形成される長三度関係にある音によって代表します。

具体的には、C、E、A♭（G♯）の各音、あるいはこれらの音を根音とする和音は、トニカの機能を担います。一方、E、G、B、C♯（D♭）の各音、またはこれらの音を根音とする和音はドミナントの役割を果たし、A♭（G♯）、H、D、Fの各音、あるいはこれらの音を根音とする和音はサブドミナントとして機能します。これにより、12のピッチクラスはすべて、調的な機能和声のカデンツの中で明確な役割を持つことになります。

中心軸システムの意義

中心軸システムは、バルトークの音楽に見られる複雑な和声構造を分析するための強力なツールを提供します。このシステムを用いることで、従来の機能和声法では捉えきれなかった、楽曲の深層にある構造を理解することが可能になります。また、この理論は、バルトークに限らず、他の現代音楽の分析にも応用されており、音楽理論の新たな可能性を切り開いたと言えるでしょう。

この理論は、音楽の構成要素である音を、単なる素材としてではなく、相互に関連し合う機能的な要素として捉えることの重要性を示しています。また、音楽の構造は単一の解釈に縛られるものではなく、多様な視点から理解できることを示唆しており、音楽分析における視野を広げる上で非常に重要な役割を果たしています。

参考文献

* エルネ・レンドヴァイ『バルトークの作曲技法』谷本一之訳、全音楽譜出版社、1978年。ISBN 4-11-800080-6

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