中書島

中書島：歴史と文化が交差する伏見の地

中書島（ちゅうしょじま）は、京都市伏見区に位置する地名です。かつては伏見市に属し、東柳・西柳という字名がありました。現在は東柳町・西柳町としてその名残をとどめています。

地理

京阪中書島駅が最寄り駅で、竹田街道が南北に走っています。宇治川、濠川、宇治川派流という川に囲まれた地形は、かつて巨椋池に浮かぶ島であったことを物語っています。

由来

中書島の名前は、文禄年間に脇坂安治が宇治川の分流に囲まれた島に屋敷を構えたことに由来します。中務少輔であった脇坂は「中書さま」と呼ばれ、その屋敷のある島が「中書島」と呼ばれるようになりました。伏見には、大名屋敷にちなんだ地名が数多く残っています。

歴史

桃山時代まで伏見港一帯は湿地でしたが、豊臣秀吉が伏見城を政庁としたことで武家屋敷が建ち並ぶようになりました。江戸時代に入り伏見城が廃城となると一時衰退しましたが、高瀬川の開削によって京都と大坂を結ぶ水運の要所として再び重要性を増しました。

その後、伏見城下にあった遊廓が中書島に移転し、柳町遊郭として繁栄しました。酒どころである伏見に近く、宇治川の水運にも恵まれた中書島は、遊廓としてだけでなく、芸妓が集まる花街としても発展し、祇園にも匹敵するほどの賑わいを見せました。

1910年（明治43年）には京阪電車が開通し中書島駅が開業、1914年（大正3年）には京都電気鉄道（後の京都市電伏見線）が乗り入れ、交通の便が向上しました。最盛期には貸座敷77軒、娼妓282人、芸妓45人を抱える大遊郭となりました。昭和初期には、深草に司令部を置く第16師団の将校や兵士も訪れるなど、大いに賑わいました。

しかし、1958年（昭和33年）の売春防止法施行を前に、遊郭の多くは学生向けの下宿屋に転業。残ったお茶屋も次第に衰退し、1970年（昭和45年）には花街としての歴史に幕を閉じました。現在の中書島は、商店街、飲み屋街、住宅地として落ち着いた街並みを見せていますが、所々に花街時代の面影を残す建物が残っています。

小説家の西口克己がこの地で生まれ育ち、中書島を舞台にした小説『廓』を執筆しています。

中書島は、その地理的な特性から水運の要衝として、また遊廓・花街として栄え、多くの人々が行き交う場所でした。歴史の変遷とともに姿を変えながらも、今もなお伏見の地でその名を刻んでいます。

もう一度検索