中村とうよう

中村とうよう（なかむら とうよう、本名：中村 東洋、1932年7月17日 - 2011年7月21日）は、日本の著名な音楽評論家、編集者です。株式会社ミュージック・マガジンの元取締役会長、代表取締役を務め、「中村とうよう事務所」の代表としても活動しました。また、武蔵野美術大学の客員研究員としてもその知識と経験を活かしました。

彼の評論活動は、ジャズ、ロック、フォークといったポピュラー音楽から、ワールドミュージック、国内・海外のルーツミュージックまで、非常に幅広いジャンルをカバーしていました。単なる音楽の紹介にとどまらず、その背景にある文化や歴史にも深く切り込む評論は、多くの音楽ファンに影響を与えました。また、数多くのレコードやCDの企画・紹介にも携わり、音楽文化の発展に大きく貢献しました。

2005年には、長年趣味として収集してきた音楽関係の骨董コレクションをまとめた『中村とうようの収集百珍』を刊行し、その多岐にわたる興味と知識を披露しました。2009年には、『ミュージック・マガジン』のアルバムレビューのワールドミュージック担当から降板しましたが、これは自身の死後を見据え、サブカルチャーに理解のある武蔵野美術大学に、自身の音楽資料を寄贈する準備のためでした。その膨大な作業を進めるべく、同大学の客員研究員にも就任しました。

2010年には、株式会社ミュージック・マガジンの会長職を辞任し、その音楽評論家としての活動に一区切りをつけました。翌年2011年7月21日、東京都立川市内の自宅マンションで倒れているところを発見され、搬送先の病院で死亡が確認されました。享年79歳。警察の捜査の結果、自殺と断定されました。亡くなった後、『ミュージック・マガジン』9月号には、遺書とともに最後のコラム「とうようズ・トーク」が掲載され、読者への最後のメッセージとなりました。コラムでは、「自分の人生は楽しかった」と述べ、自身の人生に満足していた様子が綴られていました。

彼の死後、生前の意思に基づき葬儀は行われず、複数の「お別れ会」が開催されました。特に、石坂敬一が発起人となった9月28日の「お別れ会」には、約230人が参加し、その功績を偲びました。

中村とうようには、数々のエピソードがあります。1974年には、ジャック・エリオットのコンサートの前座として出演した高田渡、友部正人、加川良、なぎら健壱らに対して、辛辣な評価を下したことがありました。これに反発した高田渡との間で論争が起こり、最終的には、高田が中村に酒を飲ませて酔いつぶれさせるという騒動に発展しました。

また、『ニュー・ミュージックマガジン』編集長時代には、その辛口な採点で知られていましたが、岡林信康がフォークから演歌へと移行した後に再びフォークアルバムをリリースした際には、満点の評価を与えたことは有名な話です。一方、ソニック・ユースの『デイドリーム・ネイション』を「音楽の才能が無い人間が作った音楽」と酷評するなど、独自の視点に基づく評価は賛否両論を呼びました。中村は、西洋クラシック音楽の訓練を受けたアーティストを評価せず、「とうようズ・トーク」においてもクラシック音楽を賞賛することはありませんでした。

中村とうようは、数多くのラジオ番組にも出演し、その音楽知識と独特の語り口で多くのリスナーを魅了しました。主な出演番組としては、『ナイトジャーナル』、『イレブンサーティーブルース』、『中村とうよう ブルースの世界』などが挙げられます。

著書も多数あり、『ラテン音楽入門』、『ロック音楽事典』、『ブルースの世界』など、幅広い音楽ジャンルに関する著作を残しました。また、『ポピュラー音楽の世紀』のような評論的な著作も発表し、その思想と知識を広めました。さらに、『中村とうようの収集百珍』では、音楽に関する幅広いコレクションを披露し、その多才さを示しました。

CDプロデュースにも力を入れ、1990年代には、ブラジル音楽、アジア音楽、日本の民謡など、多岐にわたるジャンルの作品を世に送り出しました。特に、テレサ・テンのベストアルバムや、ゴスペル、アフロキューバンなど、世界中の音楽を発掘し、日本の音楽ファンに紹介しました。

彼の音楽に対する深い愛情と、妥協を許さない姿勢は、後の音楽評論家たちに大きな影響を与え、日本の音楽文化に多大な貢献をしました。彼の死後も、その著作や評論は多くの人々に読み継がれ、その影響力は今もなお健在です。

関連文献として、『中村とうよう 音楽評論家の時代』が刊行されており、その生涯と業績について詳しく知ることができます。

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