中村一雄

中村一雄：騎手、調教師、そして牧場経営者

中村一雄（1907年11月3日～1908年11月2日 - 1990年11月2日）は、日本の競馬史に輝く、稀代の騎手、調教師、そして競走馬生産者でした。長野県出身の中村は、1923年、美馬勝一のもとで騎手としてのキャリアをスタートさせます。翌年には初騎乗を果たし、騎手として、そして後に調教師としても数々の競走で活躍しました。

騎手としての活躍

中村は騎手として、数々の重賞競走を制覇しました。1934年の春の帝室御賞典（東京）を制したミラクルユートピアをはじめ、ハクリュウ、ファインモアなど、多くの名馬に騎乗し、勝利に導きました。彼の騎乗スタイルは当時としては珍しく、鐙（あぶみ）の短いモンキー乗りで知られていました。これは師匠である美馬勝一も用いていたスタイルですが、中村はそれをさらに洗練させたと言われています。

レースでは、前半は抑え、後半に追い込むという戦法が主流だった当時において、中村は積極的に先行するスタイルを取りました。「ハナ切りの名人」「逃げの中村一雄」と称されるほど、その先行策は際立っていました。彼のこのスタイルは、後の時代になって主流となりましたが、中村は既にその30年前からこの戦法をマスターしていたのです。弟子の渡辺正人も、中村のスタイルの先進性を高く評価しています。

調教師、そして弟子の育成

調教師としては、自身の管理馬であるオーミヤチダケ（福島帝室御賞典優勝）やダイヱレク（横浜農林省賞典四歳呼馬優勝、後の皐月賞にあたる）を勝利に導きました。特に注目すべきは、弟の中村広への指導です。広は一雄の厳格な指導の下、騎手として大成し、日本競馬史上初の500勝を達成する名騎手となりました。広は形式上は弟弟子でしたが、実質的には一雄が師匠として騎乗技術を指導していました。

太平洋戦争と明和牧場

太平洋戦争中には廃業し、実業家に転身した中村でしたが、その後、北海道の明和牧場に場長として迎えられます。明和牧場は当時80頭の繁殖牝馬を抱える大規模牧場でしたが、不況の影響で経営は苦境に陥っていました。中村は、繁殖牝馬の数を半減させ、育成部門に力を注ぐことで、牧場の立て直しを図りました。1977年には預託育成も開始し、この取り組みは成功を収め、牧場の経営は安定へと向かいました。在任中には、生産馬のハワイアンイメージが皐月賞を制覇するという大きな成果も挙げています。その功績を称え、明和牧場には中村の胸像が建立されました。

東京優駿（日本ダービー）と数々の逸話

騎手として東京優駿（日本ダービー）には4度騎乗し、1939年のゴールデンモアでの3着が最高成績でした。調教師としては、1933年のメリーユートピアが2着に入賞しましたが、この時は中村が調教中に負傷したため、徳田伊三郎が騎乗しました。また、弟子のミラクルユートピアは翌年の日本ダービーで本命と目されていましたが、出走直前に負傷し、出走できませんでした。その前日夜、中村は「スタートで両側から挟まれて、どうしても出られない夢を見た」と語っていたという逸話も残っています。

晩年と死去

1990年11月2日、82歳で死去しました。

中村一雄は、騎手、調教師、そして牧場経営者として、日本の競馬界に多大な貢献をしました。彼の功績は、多くの関係者の証言や記録、そして後世に残る名馬たちの活躍を通して、今もなお語り継がれています。彼の厳格さと、常に先を見据えた戦略眼、そして後進の育成に対する情熱は、現代の競馬界にも大きな影響を与え続けています。

もう一度検索