中村仲蔵 (初代)

初代 中村仲蔵

初代中村仲蔵（1736年 - 1790年）は、江戸時代中期を代表する歌舞伎役者です。俳名に秀鶴、屋号は堺屋（のちに榮屋）を名乗り、中車紋と三つの人の紋を家紋としていました。「名人仲蔵」と称えられた名優であり、その伝説的な活躍は後世にまで語り継がれています。

生い立ちと役者への道

仲蔵は、浪人の子として生まれたとする説と、渡し守の子とする説があります。4歳の時に舞踊家の志賀山お俊の養子となり、中山万蔵と名乗って舞踊の世界で活動を始めました。その後、1743年に役者に転向し、二代目中村勝十郎の門下で中村市十郎を名乗ります。1745年には中村座で初舞台を踏み、中村中蔵と改名しました。

苦難と飛躍

1750年、贔屓に身請けされて一時役者を廃業しましたが、1754年に舞台に復帰します。しかし、4年のブランクは大きく、周囲から「楽屋なぶりもの」にされるなど苦悩の日々を送りました。自殺未遂にまで追い込まれますが、そこから奮起し、一心不乱に芸を磨きました。その姿から、人々は彼を「芸きちがい」と呼んだと伝えられています。彼の才能はやがて四代目市川團十郎に認められ、人気役者としての地位を確立しました。特に、『仮名手本忠臣蔵』五段目の斧定九郎を現在の浪人風の姿で演じたことは、大きな評判を呼びました。1785年には、中村仲蔵と改名し、その名を不動のものとしました。

仲蔵の功績

仲蔵は、門閥外から一代で大看板となった立志伝中の人物です。立役、敵役、女形など幅広い役柄をこなし、中でも所作事を得意としました。『舌出三番叟』をはじめ、『菅原伝授手習鑑』の菅丞相、『義経千本桜』の権太と狐忠信、『関の扉』の関兵衛、『戻籠』の次郎作、『娘道成寺』の白拍子など、数々の当たり役を持っています。また、舞踊家としても優れ、八代目（または六代目）志賀山万作を名乗り、志賀山流を発展させました。著書として『秀鶴日記』、『秀鶴随筆』、自伝『月雪花寝物語』などが残されています。

晩年と死後

享年55歳でこの世を去った仲蔵の墓は、当初は下谷の常在寺にありましたが、後に谷中霊園に改葬されました。戒名は浄華院秀伯善量信士です。

仲蔵を題材とした作品

現在でも落語で語り継がれる人情噺『中村仲蔵』は、彼の人生を題材としたものです。また、落語『淀五郎』では、主人公の澤村淀五郎を励ます役で登場します。仲蔵の功績や苦難の人生は、後世の多くの人々に影響を与え、小説、テレビドラマ、舞台など様々な形で描かれています。

定九郎の演出

『仮名手本忠臣蔵』の定九郎を浪人風に演じたのは仲蔵の工夫によるものですが、その背景には、立作者の金井三笑との不仲があったとする説もあります。三笑が仲蔵に嫌がらせをするために定九郎の役を振ったのがきっかけだったとされ、この逸話は、仲蔵の役者としての執念を示すものとして語られています。

柳島の妙見様

落語では、定九郎の役作りのために柳島の妙見様へ通ったとされていますが、実際には菩提寺である下谷常在寺と同じ富士派の常泉寺に参詣したという見解もあります。雨宿りをした蕎麦屋で、浪人の姿を見て定九郎の役作りに取り入れたという逸話は有名です。

紋と替紋

仲蔵の紋である「中車紋」は、師匠である中村傳九郎家のものを受け継いだものです。替紋の「三つの人」は、舞台に上がる際に気合を入れるため、「人」の字を三回書いて飲み込んだことに由来すると言われています。

現代における仲蔵

2004年には、大阪松竹座と東京日生劇場で、初代中村仲蔵を主人公にした新作狂言『夢の仲蔵千本桜』が上演され、仲蔵役を松本白鸚が務めました。2023年には、藤原竜也が主演を務めた舞台『中村仲蔵～歌舞伎王国下剋上異聞～』が上演されるなど、現代においても彼の人気は衰えることを知りません。

初代中村仲蔵は、その卓越した芸と不屈の精神で、歌舞伎史にその名を刻んだ偉大な役者であり、その物語は今もなお多くの人々を魅了し続けています。

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