中村俊定

中村俊定：近世俳諧研究の泰斗

1900年、愛知県に生まれた中村俊定は、幼少期に僧籍に入り、京都で修行を積んだ後、早稲田大学でロシア文学、そして国文学を学びました。卒業後は実業之日本社に勤務した後、複数の学校で教鞭をとりながら、旺盛な研究活動を展開しました。

彼の研究活動は多岐に渡ります。伊藤松宇の『俳書解題』編纂への協力、荻野清との『大芭蕉全集』企画・刊行への尽力など、多くのプロジェクトに関わりました。特に1936年の「俳諧研究会」設立と、研究誌『連歌と俳諧』の創刊は、近世俳諧研究における彼の先駆的な役割を示しています。1950年の俳文学会設立においても中心的役割を果たし、その後の日本の俳諧研究に大きな影響を与えました。

中村俊定の学問的業績は高く評価され、1956年には早稲田大学教授に就任。多くの学生に影響を与えました。彼の専門は近世日本文学、特に俳諧であり、数々の著書や編著書を世に送り出しました。代表的な著書として『現代俳句』『蕪村以後』『俳諧史の諸問題』などがあり、松尾芭蕉の著作の校注・編纂にも数多く携わっています。例えば、岩波文庫における芭蕉作品（『芭蕉七部集』『芭蕉俳句集』『芭蕉紀行文集 付・嵯峨日記』など）の校注は、現代でも広く利用されている重要な成果です。

これらの研究活動により、彼は1957年に『日本古典文学大系 芭蕉句集（連句篇）』で文部大臣賞を受賞するなど、高い評価を得ました。1970年に早稲田大学を定年退職後も、二松学舎大学教授として後進の育成に尽力しました。

彼の研究活動は、単なる学問にとどまりません。弟子である中野三敏の証言によると、中村は「エレベーター信仰」や大福餅好きといったユニークな面も持ち合わせていた、人間味あふれる人物でした。彼のこの人間性も、多くの弟子や研究仲間から慕われた理由の一つでしょう。

中村俊定の没後、彼の夫人である治子夫人の計らいにより、彼の蔵書が早稲田大学図書館に寄贈され、「中村俊定文庫」が設立されました。この文庫には、江戸時代の版本や写本を中心とした、貴重な連歌・俳諧資料が数多く収蔵されており、現在も多くの研究者によって活用されています。

中村俊定は、研究者として、教育者として、そして人間として、近世俳諧研究に多大な貢献をした人物であり、その功績は現代においても高く評価されています。彼の残した著作や資料は、今後も日本の文学研究に重要な役割を果たし続けることでしょう。

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