荀子

荀子：戦国末期の儒学者とその思想

荀子（じゅんし、紀元前313年頃～紀元前238年以降）は、中国戦国時代末期を代表する思想家であり儒学者です。名は況（きょう）、字は荀況（じゅんきょう）といい、荀卿（じゅんけい）や孫卿（そんけい）とも呼ばれました。趙国で生まれ、50歳頃に斉国で遊学を始め、斉の襄王に仕え、稷下の学士の祭酒（学長）に任ぜられました。その後、讒言により斉を去り、楚の宰相春申君に仕えた後、蘭陵の令に任じ、退官後はその地で余生を過ごしたと伝えられています。後[[漢]]の荀彧や荀攸は、荀子の末裔とされています。

荀子の著作と伝承

荀子とその後の研究者たちが著した著作は、前[[漢]]末の劉向によって『孫卿新書』としてまとめられました。その後、唐代の楊倞が校訂と注釈を行い、書名を『荀子』と改め、32篇20巻の現行の体裁を整えました。現存する『荀子』は、すべて楊倞の校訂本系統に属します。初版の刊行は北宋であり、宋代の刊本（影宋台州本）は日本に現存しています。江戸時代の久保愛（久保筑水）は、この影宋台州本を参照して『荀子増注』を著し、日本の『荀子』研究に貢献しました。

荀子の思想：性悪説と礼治主義

荀子は、人間の性根は悪であるとする「性悪説」で知られています。これは、孟子の「性善説」と対照的な主張です。荀子は、人間の欲望は際限なく、社会秩序なしでは争いが絶えず、社会は混乱と貧困に陥ると考えました。そのため、人々は君主の権力に服従し、その規範（礼）に従うことによって、安全と繁栄を得ることができると主張しました。この思想は、近代西欧の社会契約説の先駆けとして評価されています。

荀子は、礼を国家を治めるための重要な技術と捉えました。礼は法の根本であり、国家の法や制度は礼の精神に基づいて制定されるべきだと主張しました。王制篇では、理想的な統治者像として、人材育成、制度の整備、法の制定、そして礼に基づいた判断を行う君主の姿を描いています。荀子の描いた国家体制は、秦の李斯による官僚制度に、そして後世の中国王朝にも影響を与えました。

荀子は、実力主義・成果主[[義]]についても主張しました。王公貴族の子孫であっても、能力がなければ庶民に落とされ、庶民であっても能力と徳があれば高い地位に昇進できる、というメリトクラシー的な考え方を示しました。

荀子はまた、天人相関説を否定し、天を単なる自然現象と捉えました。天変地異は、為政者の行いとは無関係な出来事であり、占いや祈祷は効果がないと主張しました。

王覇論と儒家思想における荀子の位置づけ

荀子は、王道政治による理想的な王者を理想としながらも、現実的には覇者による統一も認めていました。覇者は、力によってではなく、正[[義]]に基づいた外交によって諸侯を服従させ、弱者を助け、滅んだ国を復興させるべきだと説いています。ただし、荀子はあくまでも王者による王道政治を理想としていました。

儒家思想において、荀子は孟子とは異なる立場を取っていましたが、孔子の思想を継承した重要な儒学者です。しかし、唐代の韓愈は、孔子の道統を孟子までと見て、荀子を高く評価しませんでした。宋代以降の儒学においても、荀子は孟子や子思に比べると、あまり重視されませんでした。ただし、清代以降の考証学の発展や、近現代における新たな解釈により、荀子の思想は再評価されています。

荀子と後世への影響

荀子の弟子には、韓非子や李斯といった法家の代表的人物も含まれます。彼らの思想は、荀子の思想を継承しつつ、法による統治を重視する方向へ発展していきました。

日本においても、江戸時代の荻生徂徠や久保愛らによって『荀子』が研究され、日本の儒学に影響を与えました。近現代においても、荀子の思想は、中国や日本の思想界に様々な影響を与え続けています。

近年発見された馬王堆帛書や郭店楚簡などの新出文献は、荀子の思想背景を理解する上で重要な手がかりを提供しています。

荀子の日本語訳

『荀子』の日本語訳は、岩波文庫、中公クラシックス、角川ソフィア文庫など様々な出版社から刊行されています。それぞれの訳注の特徴を理解した上で、自分に合った版本を選ぶことが重要です。


このように、荀子は、性悪説、礼治主義、実力主義、そして天人観など、多様な思想を展開した戦国時代の重要な思想家です。その思想は、後世の中国や日本の政治、社会、思想に多大な影響を与え続けています。

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