中村歌門

歌舞伎俳優が代々使用する名跡の一つに「中村歌門（なかむら かもん）」があります。

この名は古くから存在が確認されており、記録に残る最初の使用者は、江戸時代中期、おおよそ享保15年（1730年頃）まで活動していた人物とされる人物です。この人物は、中村氏之助から坂東花妻、さらに四代目佐野川花妻を経て「中村歌門」と改名した経緯を持つことが伝えられています。

明治時代を経て歌舞伎が近代化される中、この名跡は再び舞台で用いられるようになりました。近代における「初代 中村歌門」は、二代目中村翫右衛門を父に持ち、三代目中村翫右衛門の兄にあたる人物（1889年 - 1941年）です。彼は若い頃に二代目中村梅之助を名乗り、その後、尾張屋梅之助、再び二代目中村梅之助と改名。そして「初代中村歌門」を襲名し、晩年は三代目中村仲助として舞台を務めました。彼は翫右衛門家の一員として、歌舞伎界における中村家の流れに連なる存在でした。

昭和時代には、二代目 中村歌門（1913年 - 1989年）が登場します。彼の出自は歌舞伎役者の家系ではなく、落語家である二代目談洲楼燕枝の長男でした。しかし、早くから歌舞伎の道に進み、1925年に五代目中村歌右衛門に師事し、中村福燕の名で初舞台を踏みました。彼は古典歌舞伎の修行を積む傍ら、演劇研究家である岩田豊雄（獅子文六）らが立ち上げた春秋座の公演に参加するなど、新しい演劇運動にも触れました。1933年には、従来の歌舞伎の枠にとらわれない活動を目指した初代市川猿翁（当時は二代目市川猿之助）率いる前進座の旗揚げに参加し、市川菊之助と改名しました。前進座では脇役として重要な役柄を多く演じ、屋号を駒村屋、俳名を花妻としました。しかし、1965年に前進座を退座し、翌年からは六代目中村歌右衛門の門下に入り、歌舞伎座などでの活動に活躍の場を移しました。彼の「二代目 中村歌門」襲名までの道筋は、中村福燕から中村古登之助、そして市川菊之助という改名を経てのものでした。ちなみに、二代目の姉は三代目中村翫右衛門の妻であり、初代とは異なる系統ながらも、中村家との繋がりを持っていたことも特筆されます。

中村歌門という名跡は、江戸時代から現代まで断続的に受け継がれ、その襲名者たちは、歌舞伎の名門に連なる者、新しい演劇運動に参加した者など、多様な背景を持つ個性的な俳優たちでした。この名跡の歴史は、歌舞伎界の系譜や変化の一端を示唆していると言えるでしょう。

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