中野幹隆

中野幹隆：時代の先端を切り開いた編集者

中野幹隆（なかの みきたか、1943年 - 2007年）は、日本の出版界において、その革新的な編集姿勢と幅広い知識で、大きな足跡を残した人物です。彼は単なる編集者としてだけでなく、出版社の創立者、そして独自の出版モデルを確立した先駆者としても知られています。

生涯とキャリア

長野県に生まれた中野は、1967年に日本出版協会に入社し、その後竹内書店に移籍。季刊誌『パイデイア』の編集に携わります。1972年には青土社に移り、1973年に『現代思想』を創刊。編集長として、哲学、思想分野に新たな潮流を生み出しました。その後、朝日出版社に移籍し、1975年には月刊誌『エピステーメー』を創刊。ジル・ドゥルーズとフェリックス・ガタリの『リゾーム』をいち早く翻訳紹介するなど、海外の先端的な思想を日本に紹介する役割も担いました。

『エピステーメー』では、映画特集「映画狂い」や蓮實重彦の小説『陥没地帯』の掲載など、実験的な試みも積極的に行いました。雑誌編集と並行して、「エピステーメー選書」や「エピステーメー叢書」など、書籍の編集も手掛け、幅広い読者層に支持されました。また、精神分析をテーマにした月刊誌『モノンクル』の創刊も手がけています。

1980年代に入ると、中野はさらに革新的な出版活動を展開します。1984年には、書き下ろしペーパーバックシリーズ「週刊本」を刊行。これは、毎週新しい本を読者に届けるという、当時としては画期的な試みでした。また、「ポストモダン叢書」や「リゾーム群書」などのシリーズも編集し、時代の最先端の思想を積極的に紹介しました。

哲学書房の設立と独自の出版モデル

1986年、中野は自ら出版社「哲学書房」を設立し、社主となります。哲学書房では、蓮實重彦の小説『陥没地帯』の単行本を刊行するなど、自身の思想を反映した出版活動を展開しました。また、『季刊哲学』や『季刊ビオス』などの雑誌も創刊し、学術出版の新たな可能性を追求しました。

特筆すべきは、中野が哲学書房で確立した「印税0」の出版ビジネスモデルです。これは、執筆者に印税を支払わない代わりに、出版費用を出版社が負担するというもので、学術出版の世界では画期的な試みでした。このモデルは「中野モデル」と呼ばれ、他の出版社にも影響を与えました。

死と追悼

中野は、3年近い闘病生活の末、2007年に63歳で亡くなりました。彼の死後、ジュンク堂書店などで追悼ブックフェア「中野幹隆という未来」が開催され、その功績が改めて評価されました。

中野幹隆の遺産

中野幹隆は、日本の出版界に大きな足跡を残した編集者であり、思想家でした。彼の革新的な編集姿勢と幅広い知識、そして独自の出版モデルは、後世に大きな影響を与えています。彼が手がけた雑誌や書籍は、今もなお多くの読者に愛され、読み継がれています。中野の存在は、出版の可能性を広げ、読者に新たな知の世界を開く、その道標となっています。

主な編集・発行物

以下は、中野幹隆が編集または発行に関わった主な定期刊行物と書籍シリーズです。

定期刊行物

『日本読書新聞』：日本出版協会
『パイデイア』：竹内書店
『現代思想』：青土社
『エピステーメー』：朝日出版社
『エピステーメーII』：朝日出版社
『モノンクル』：朝日出版社
『季刊哲学』：哲学書房
『季刊ビオス』：哲学書房
『セーマ』：セーマ出版／哲学書房

書籍シリーズ

エピステーメー選書：朝日出版社
エピステーメー叢書：朝日出版社
Lecture books：朝日出版社
科学の名著：朝日出版社
講座＝思考の関数：朝日出版社
週刊本：朝日出版社
ポストモダン叢書：朝日出版社
リゾーム群書：朝日出版社
思考の響応：朝日出版社

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