丸井硬式野球部

東京都を拠点として活動した社会人野球チームに、丸井硬式野球部がありました。株式会社丸井が運営母体となり、日本野球連盟に加盟していた企業チームです。このチームの最大の特徴は、その活動期間が極めて短かったことにあります。1963年に誕生したものの、翌1964年には早くもチームの歴史に幕を下ろしています。

丸井が硬式野球部を設立した背景には、同社の副社長の強い意向がありました。この副社長は、当時丸井が注力し始めていたクレジットカード事業の発案者としても知られています。社会的に企業スポーツへの関心が高まる中、本格的なチーム創設を目指した副社長は、指導者として野球界で名の知られた人物たちを招聘しました。初代監督には、前年まで丸善石油で選手兼任監督を務めていた岡田悦哉氏を迎え、コーチには岡田氏と共に丸善石油でプレーした捕手の枯木憲二氏が就任しました。岡田氏と枯木氏は、共に高校野球の強豪、関西高等学校から明治大学へと進んだ先輩・後輩の間柄であり、1959年の都市対抗野球大会では優勝を経験した実績を持ち合わせていました。特に岡田氏は、明治大学野球部で名将として知られる島岡吉郎監督の片腕と称されるほど野球への造詣が深く、また島岡氏と同様にアマチュア野球界に幅広い人脈を持っていたことで知られていました。

岡田監督の持つ全国的な人脈は、チーム編成に大きな影響を与えました。彼の呼びかけに応じ、全国各地から著名な選手や将来有望な選手たちが丸井硬式野球部に集結したのです。これは、設立間もない企業チームとしては異例の人材収集力でした。集まった選手たちは、岡田監督、枯木コーチの指導の下で実力を高め、当時のレベルの高い社会人野球界においても、強豪チームと遜色のない、互角以上の戦いを繰り広げることが可能なポテンシャルを備えていました。

しかしながら、チームが活動できた期間は、前述の通りわずか1年間という短いものでした。この短い期間の中で行われた公式戦では、善戦する試合も多かったものの、チームとして目標としていた都市対抗野球大会への出場は叶いませんでした。特に都市対抗野球の一次予選では、初戦で敗退という結果に終わっています。

そして1964年末、「社業拡大」を理由として、丸井硬式野球部は廃部となりました。急成長を遂げていた丸井が、経営資源をより本業に集中させるための判断だったと考えられます。創部からわずか1年という短期間での活動終了は、チームの関係者や選手にとって、非常に突然の出来事だったことでしょう。

チームは短命に終わりましたが、その短い歴史の中からプロ野球界へと進む選手を輩出したことは、特筆すべき功績です。チームに在籍していた内野手の大杉勝男選手は、廃部後の1965年にプロ野球の東映フライヤーズ（現在の北海道日本ハムファイターズの前身）へ入団しました。大杉選手はプロ入り後、強打の内野手として長年にわたり活躍し、NPB史上初となる両リーグ1000本安打を達成するなど、日本のプロ野球史にその名を刻む偉大なプレーヤーとなりました。また、投手だった佐藤玖光選手も、丸井硬式野球部の廃部を受けて林建設のチームに移籍した後、1969年にドラフト外で西鉄ライオンズ（現在の埼玉西武ライオンズの前身）に入団し、プロ野球選手としての一歩を踏み出しました。わずか1年の活動期間ながら、二人のプロ野球選手が誕生した事実は、このチームに集められた人材の質の高さを物語っています。

丸井硬式野球部は、クレジットカード事業の推進者が設立を主導し、岡田悦哉氏のような優れた指導者の下、全国から集まった有望な選手たちがプレーした、極めて短いながらも記憶に残るチームです。都市対抗予選での敗退、そしてわずか1年での廃部という結末を迎えましたが、大杉勝男氏に代表されるように、そこからプロ野球界へと羽ばたいた選手たちの存在は、このチームが確かに持っていたポテンシャルと、社会人野球史の一コマを彩った証と言えるでしょう。その短い歴史の中に、多くのドラマがあったことが想像されます。

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