丸山圭三郎

丸山圭三郎：言語と存在の深淵を究めた思想家

丸山圭三郎（1933年4月25日-1993年9月16日）は、20世紀後半を代表するフランス語学者にして哲学者である。東京生まれ。東京大学文学部仏文科卒業後、同大学院を修了。国際基督教大学准教授などを経て、中央大学教授に就任した。

フランス語教育者からソシュール研究の第一人者へ

当初はフランス語教師として数多くの教科書を執筆・出版するなど、フランス語教育に大きく貢献した丸山だが、その過程で言語学、とりわけソシュールの言語理論に深い関心を抱くようになる。そして、彼はソシュール研究に没頭し、日本における第一人者としてその名を馳せるに至った。単なる言語学にとどまらず、独自の言語哲学、いわゆる「丸山言語哲学」を確立したことは、彼の大きな功績と言えるだろう。

ソシュールの真意を追い求めて

ソシュールの代表作として広く知られる『一般言語学講義』について、丸山は、弟子たちがソシュールの講義録を編集したものであり、ソシュールの思想を必ずしも正確に反映しているとは限らないと批判した。彼は、講義録やソシュールの残した手稿などの一次資料を徹底的に分析することで、ソシュールの真意を解き明かそうとした。例えば、『一般言語学講義』ではシニフィアン（記号表現）がシニフィエ（記号内容）より上位とされる解釈がなされているが、丸山は原典に基づいた詳細な分析から、両者の間に優劣はないと結論づけた。

関係主義に基づく言語哲学

丸山は、既存の文化や思想が「実体主義」に基づいていると批判し、言語学の視点から実体主義の解体と転回を試みた。これは、廣松渉や大乗仏教における関係主義とは異なるアプローチであり、丸山独自の哲学的立場を明確に示している。

未完成の三部作『生命と過剰』

『生命と過剰』は、丸山が構想した三部作の第一部として発表された。しかし、第二部の刊行直後に急逝したため、第三部は未完に終わった。第二部で既に全体像が示されているとの見方もあるが、丸山自身は第一部を「原理論」とし、第二部では音楽の問題などを扱う予定だったという。彼の構想が完成を見ることなく終わってしまったことは、多くの研究者にとって残念な出来事であったろう。

多様な影響と独自の視点

丸山の思想形成には、フランスの作家ジュリアン・グリーンの研究、ソシュール、ジャック・ラカン、そして井筒俊彦といった様々な人物からの影響が認められる。特に晩年は井筒俊彦の深層意識に関する考え方に共感し、自身の言語哲学構築に参照しながらも、神秘主義ではなく芸術・創造活動という側面から独自の見解を展開した点が注目される。

数多くの著作

丸山圭三郎は、フランス語教育に関する教科書から、ソシュール研究、言語哲学、文化論にわたる多様な著作を残した。代表的な著書としては『ソシュールの思想』『文化のフェティシズム』『生命と過剰』などがあり、それらは今日でも高く評価されている。さらに、彼の幅広い関心を示す著作として『人はなぜ歌うのか』がある。これはカラオケを題材にした文化論であり、彼のユニークな視点と探究心を改めて示すものとなっている。彼の著作は、言語学、哲学、文化研究の分野において、今もなお多くの研究者や学生に影響を与え続けている。彼の没後も、その思想は深く研究され、現代思想に多大な影響を与え続けている。

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