廣松渉

廣松渉（ひろまつ わたる）

廣松渉は、日本の著名な哲学者であり、特にマルクス主義に関する独自の見解で知られています。彼は1933年8月11日に生まれ、1994年5月22日に肺癌のため逝去しました。東京大学の名誉教授として、広範な思想的貢献を残し、多くの著作を執筆しました。

生涯と背景

廣松は福岡県柳川市蒲池の出身で、最初は宮崎県の厚狭郡（現在の山陽小野田市）で生まれました。若い頃から政治活動に関わりを持ち、1946年には日本青年共産同盟に加入、1949年には日本共産党に入党しました。大学では東京学芸大学に入学するも中退し、その後東京大学文学部哲学科に再入学しました。彼は当初エルンスト・マッハに興味を持ちましたが、指導教官の影響もありカントの研究に従事しました。1965年には東京大学の大学院に進学し、1965年に博士課程を取得しました。

政治的な立場に関して、廣松は共産党に復党するものの、知的探求の過程で再び離党し、共産主義者同盟（ブント）に支持を寄せました。1967年には『情況』を創刊し、金銭面で支援を行うなど、その活動は幅広いものでした。1990年にはソ連・東欧の社会主義体制崩壊に伴うフォーラム90sの設立にも関与しました。

思想と哲学

廣松の思想は、従来のマルクス主義を再構築しようという試みが特徴的です。彼の哲学は、「主体と客体の図式」に対する批判から始まります。彼は、マルクス主義の疎外論に基づき、「物象化論」という新たな視点を提唱しました。廣松の主張は、労働が生産物に与える「価値」は、個々の主体の労働からではなく、社会の中での関係性の中から生じるものだとするものでした。

また、「世界の共同主観的存在構造」という概念を展開し、近代哲学の枠組みを批判しました。彼はフェノメノン（現象）を「誰かに対してある」とし、存在の構造は「相互関係によって成り立っている」と位置付けました。この考えに基づき、主観と客観の二項対立を超越する新たな認識論を確立しようとしました。

廣松は「近代の超克論」において、京都学派の哲学が近代の歴史的背景と密接に関連していることを分析しました。彼はこの研究を通じて、人間疎外の問題を提起し、マルクス主義の立場からそれを深化させる試みを行いました。

主な著作

廣松は多くの著作を発表し、特に“マルクス主義三部作”として知られる「マルクス主義の成立過程」、「マルクス主義の地平」、「マルクス主義の理路」は、彼の思想的基盤を形成する重要な作品です。また、彼の主著「存在と意味」は、その後の研究においても大きな影響を与えました。

彼の著作は、社会問題、哲学、政治思想における洞察を提供し、今日でも多くの研究者や学生に読まれています。廣松の研究は、マルクス主義の理解を深めるだけでなく、現代哲学における重要な視点を提供しています。彼の影響は今も続いており、彼の思想を読み解くことは、現代思想の理解を深める手助けとなるでしょう。

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