丸山町

かつて千葉県 安房郡に存在した町 - 丸山町

千葉県の房総半島南部に位置し、温暖な気候と豊かな自然に恵まれていた丸山町（まるやままち）は、平成の大合併を経てその名を消した町の一つです。かつて安房郡に属し、周辺自治体との連携から館山都市圏の一角を担っていました。2006年（平成18年）3月20日、同じ安房郡内の富浦町、富山町、三芳村、和田町、千倉町、白浜町との新設合併により、新たに誕生した南房総市の一部となり、その歴史に幕を閉じました。

町域は南北に細長く広がり、特に南部は太平洋に面していました。一年を通して温暖な気候は、特に花の栽培を大いに発展させました。春になると、町内のあちこちで鮮やかな菜の花が一面に咲き誇り、訪れる人々の目を楽しませる風景は丸山町の象徴の一つとなっていました。町の中央部を貫流する丸山川は、この地の名称の由来とも伝えられています。

歴史と文化の面では、古刹として知られる石堂寺が特筆されます。この寺院が有する多宝塔は、1992年（平成4年）に国の重要文化財に指定されました。また、寺宝として足利頼氏の座像や聖徳太子の像、そして戦乱を避け隠れ住んだ足利氏の末裔に関する記録である「足利文書」などが大切に伝えられています。地域の信仰を支える神社としては、莫越山神社があり、ここでは酒造免許を取得し、神事に供える神饌酒（お神酒）を自ら醸造するという珍しい取り組みが続けられていました。さらに、丸郷神社には、古くから農作物の豊凶を占う「筒粥神事」という、他にあまり類を見ない神事が今に伝えられています。

この地はまた、日本の酪農の歴史においても重要な位置を占めています。「日本酪農発祥の地」として千葉県の史跡に指定されている「千葉県嶺岡乳牛試験場」がかつての町域内に位置しています。この歴史を記念し、1995年（平成7年）11月8日には、試験場の一角に歴史資料館「酪農のさと」が整備され、日本の酪農の歩みを紹介しています。

丸山町では、地域の魅力を高めるための様々な取り組みが積極的に行われました。特に、気候が地中海沿岸と似ている点に着目し、1988年（昭和63年）には「風車とローズマリーの里」づくり構想が始動しました。同年9月には構想のシンボルとなる最初の木製風車3基が設置され、12月からは夜間のライトアップが始まりました。翌1989年（平成元年）にはさらに10基の風車が増設され、1991年（平成3年）にはこの構想を象徴するマークが作られました。そして同年9月22日、「ローズマリー公園」がオープンしました。公園内には1995年（平成7年）5月4日に古城を模した展望台が完成し、さらに1997年（平成9年）4月23日には、英国の劇作家シェイクスピアの生家を再現した「シェイクスピア・カントリー・パーク」も開園し、地中海風の異国情緒あふれる景観が創出されました。これらの地域振興策は高く評価され、1992年（平成4年）度の「農村優良賞」、1994年（平成6年）度の「毎日・地方自治大賞」奨励賞、そして1996年（平成8年）度の「手づくり郷土賞」など、数々の賞を受賞しました。

地中海風の景観づくりが進められる一方で、武道の歴史にも光が当てられました。剣術流派である小野派一刀流の流祖とされる小野次郎右衛門忠明の生誕地であることから、1988年（昭和63年）には「剣の里」づくり構想も開始されました。この構想に基づき、1989年（平成元年）4月14日には「小野次郎右衛門忠明生誕の地公園」が整備され、偉大な剣士の功績を顕彰しています。

丸山町の成立は1955年（昭和30年）3月15日に、豊田村、丸村、および当時の千倉町の一部地域が合併し、新たな町として誕生したことに始まります。翌1956年（昭和31年）9月1日には、近隣の南三原村の一部地域が編入されました。その後、約50年にわたり存続しましたが、前述の通り2006年（平成18年）3月20日をもって消滅しました。

かつての基幹産業は農業であり、稲作はもちろんのこと、日本の酪農発祥の地にふさわしく酪農が栄えたほか、温暖な気候を活かした菜の花をはじめとする花卉栽培も重要な位置を占めていました。

交通網としては、東日本旅客鉄道（JR東日本）の内房線が町内を通過していましたが、残念ながら町域内に駅は設置されませんでした。そのため、鉄道を利用する際の最寄り駅は、南に隣接する和田町の南三原駅か、東に隣接する千倉町の千歳駅でした。道路については、国道128号線と国道410号線という主要な幹線道路が通っており、地域の交通を支えていました。

町内には教育機関として、丸山町立丸小学校と丸山町立南小学校の二つの小学校、そして丸山町立丸山中学校の一つのを中学校が設置されていました。

丸山町の主な観光地や施設としては、前述の「千葉県酪農のさと」や「石堂寺」のほか、「道の駅ローズマリー公園」やその中に設けられた「シェイクスピア・カントリー・パーク」、「小野次郎右衛門忠明生誕の地公園」などがありました。特に道の駅ローズマリー公園は、「風車とローズマリーの里」構想の中心施設として、多くの観光客を集めました。

また、丸山町は漫画作品の舞台としても描かれています。つげ義春氏による名作『庶民御宿』では、バイクで千倉町を目指した二人の旅人が、丸山町周辺で道に迷い、偶然一夜の宿を借りた農家との交流が、ユーモアとペーソスを交えて軽妙に描かれています。

周辺自治体としては、合併前は鴨川市、館山市、そして安房郡内の富山町、三芳村、千倉町、和田町と境界を接していました。特に和田町、千倉町、白浜町とともに、「朝夷地区」（あさいちく）という通称で呼ばれる一帯を形成していました。

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