足利頼氏

足利頼氏（あしかが よりうじ）

足利頼氏は、鎌倉時代中期の武将であり、足利氏の宗家5代目当主です。父は足利泰氏、母は北条時氏の娘という家系に生まれました。初めは利氏（としうじ）と名乗っていましたが、後に頼氏と改名しています。室町幕府を開いた足利尊氏の曾祖父にあたります。

生涯

元服と家督相続

頼氏は、足利泰氏の三男として生まれましたが、母が北条得宗家出身であったため、嫡子として指名されました。父の跡を継ぎ、足利氏の当主として上総と三河の二ヶ国を領有しました。

『吾妻鏡』における初出は、建長4年（1252年）11月11日の条で、「足利大郎家氏　同三郎利氏」と記されています。それまで「足利三郎家氏」と記録されていたのが、この記述では家氏が「大郎」（太郎）となり、「三郎」を名乗る人物が利氏（頼氏）に変わっているのが確認できます。これは、「三郎」が兄弟の順序を示す通称ではなく、足利氏の嫡流の家督継承者が名乗る称号であったためです。母の出自の違いにより、建長3年（1251年）から建長4年（1252年）の間に足利氏の嫡子が家氏から利氏（頼氏）へと交代したと考えられます。

『吾妻鏡』によると、家氏の表記が建長3年8月15日条の「足利三郎家氏」から、翌建長4年4月1日条では「足利大郎家氏」へと変化しているため、この間に変化があったと考えられます。また、建長3年12月2日に父の泰氏が出家しており、これを受けて利氏（頼氏）が家督を継承したと見られています。通称名「三郎」は元服の際に名乗るため、利氏（頼氏）の元服は建長3年の8月15日から12月2日の間に行われたと推測されます。頼氏の生誕年は仁治元年（1240年）と見られており、建長3年当時は数え年12歳で、元服の年齢としても妥当です。

幕府における活動

その後、『吾妻鏡』には「足利三郎利氏」として頻繁に登場します。建長8年/康元元年（1256年）8月11日条には、母方の伯父である北条時頼の長男・宝寿（後の北条時輔）の元服の際、烏帽子親を務めたことが記されています。

当時、頼氏は利氏と名乗っており、宝寿は「利」の字を取って「時利」と名乗りましたが、後に両者とも改名しています。頼氏の改名時期は、8月16日条では「足利三郎利氏」であるのに対し、一週間後の8月23日条では「足利次郎兼氏 同三郎頼氏」となっていることから、この時期に利氏から頼氏への改名が行われたと考えられます。「頼」の字は当時の執権・北条時頼からの一字であり、足利氏の嫡子が利氏に替わったことで、時頼が甥である利氏との関係を深めるために、自らの一字を与えて改名させたと考えられています。

『吾妻鏡』では、その後「足利三郎頼氏」として、正嘉元年（1257年）12月29日条で将軍・宗尊親王の御所警護に加わった記事を最後に登場しなくなります。しかし、弘長元年（1261年）には同名の「治部権大輔頼氏」が現れ、系図などから同一人物とされています。この間の頼氏の活動は『吾妻鏡』には記されていませんが、正嘉3年/正元元年（1259年）当時の史料から、頼氏の動向を読み取ることができます。

2月20日の書状では、北条長時と北条政村が深堀時光に対し、翌年の1月1日から6月30日まで、番頭「足利三郎」の下で京都大番役を務めるよう命じています。この「足利三郎」は頼氏に比定され、頼氏が上総国守護として京都大番役の番頭を務めていたことがわかります。

また、吉田経俊の日記『経俊卿記』には、同年4月17日、従五位下となった人物の中に「源頼氏」の名があります。当時、「頼氏」を名乗る人物は他に世良田頼氏と佐々木頼氏がいましたが、彼らは官位を持っていなかったため、足利頼氏が従五位下・治部権大輔に叙任された可能性が高いとされています。翌正元2年/文応元年（1260年）には「治部権大輔」の名で再び『吾妻鏡』に現れます。

頼氏の活動は、鎌倉幕府第6代将軍・宗尊親王の近臣としてのものが多く、これは北条氏が擁立した将軍に近侍することで、得宗・北条時頼への忠誠を示すための行為であったと考えられています。

晩年

頼氏は弓矢に優れ、鶴岡八幡宮での流鏑馬などで活躍していましたが、病弱であったため、弘長元年（1261年）7月29日、頼氏を指すと思われる「治部大輔」が翌月15日の鶴岡八幡宮での行事（放生会）を病気で辞退したという記述を最後に、史料から姿を消しました。頼氏の没年には諸説あり、弘長2年（1262年）説、弘安3年（1280年）説、永仁5年（1297年）説があります。

弘長2年（1262年）死亡説：足利吉祥寺の位牌や『瀧山寺縁起』などで4月24日に死去したとされています。
弘安3年（1280年）死亡説：『尊卑分脈』などで4月2日に出家し、4月7日に23歳で死去したとされています。
永仁5年（1297年）死亡説：鑁阿寺の位牌などで6月9日に40歳で死去したとされています。

臼井信義の研究によれば、文永6年（1269年）4月に子の家時が鑁阿寺に定文を定めていることから、この時点で家時が足利氏の当主であったと見られること、1280年説や1297年説は頼氏の生母の没年と矛盾することなどから、1262年説が有力とされています。また、『瀧山寺縁起』の記述や『蠧簡集残編 六』所収の「足利系図」にも弘長2年（1262年）4月24日卒とあることから、臼井説が補強されています。

異説として、『関東往還記』に弘長2年6月19日、足利左馬入道が西大寺叡尊のもとに参ったという記事がありますが、これは頼氏ではなく、足利義氏（頼氏の祖父）を指すものとされています。

以上のことから、1262年死亡説が有力とされ、命日は4月24日、享年は23歳とされています。逆算すると仁治元年（1240年）生まれとなり、建長3年（1251年）に元服したという説とも矛盾しません。

死後

頼氏の死後、足利氏の家督は側室との間に生まれた家時が継承しました。本来、足利氏では北条氏一門の女性を正室とし、その間に生まれた子が嫡子となる決まりでしたが、家時は例外的に家督を継ぐことができました。これは、頼氏が正室との間に子をもうける前に死去したためと考えられています。ただし、家督継承時の家時は幼少であったため、長兄の家氏が家督を代行したとされています。

年表

仁治元年（1240年）：誕生
建長3年（1251年）：元服
建長4年（1252年）：家督を相続
建長8年/康元元年（1256年）：北条時輔の元服で烏帽子親を務める
正嘉元年（1257年）：将軍・宗尊親王の御所警護に参加
正嘉3年/正元元年（1259年）：京都大番役の番頭を務める
弘長元年（1261年）：鶴岡八幡宮放生会への参加を辞退
弘長2年（1262年）：死去

偏諱を与えた人物

利氏時代
北条時利（後の時輔）
頼氏時代
上杉頼重
新田基氏？

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