丹那盆地

丹那盆地

丹那盆地は、静岡県田方郡函南町の東部に位置する、周囲約4kmの小さな盆地です。標高は約230mで、盆地の南北には細長い谷が走り、北側には田代盆地や軽井沢盆地といった小盆地が連なります。これらの盆地は、北伊豆断層帯の活動によって形成された構造盆地です。盆地の中央部には、田代盆地から続く丹那断層が貫通しています。

地理と地質

丹那盆地は、箱根山麓から伊豆半島にかけて伸びる北伊豆断層帯の西縁に位置しています。この地域は熱海火山由来の火山岩で構成されており、地下には砂礫層が存在します。この砂礫層と断層破砕帯が、豊富な地下水を蓄える要因となっています。丹那トンネルの掘削時には、大量の湧水が発生し、これが難工事の一因となりました。現在でも、この湧水は熱海・函南の上水道の一部として利用されています。

1930年には、北伊豆断層帯のずれによってマグニチュード7.6の北伊豆地震が発生しました。この地震により、丹那盆地周辺では2.5～3.5mもの大きな横ずれが観測され、盆地南東部の一部が露出しました。この断層は、当時建設中だった丹那トンネルの工事にも影響を与え、地震学の観点からも大きな注目を集めました。

1935年には、この断層が天然記念物に指定され、現在も断層公園として当時の状態が保存されています。また、2012年には、伊豆半島全体が伊豆半島ジオパークに認定され、丹那断層周辺がジオサイトとして登録されました。

景観と交通

盆地の外周には、環状に集落が形成されており、平地部はほぼ全域が農地として利用されています。これは、かつて水を得やすい場所に田が開かれた名残です。盆地の中心部には、酪農開拓に尽力した川口家の邸宅跡があります。かつては木々が生い茂る森の様相でしたが、現在はほとんど伐採されています。

盆地の外周道路は、静岡県道135号田原野函南停車場線の一部であり、伊豆の国市と函南中心市街地を結んでいます。南側の山腹には、熱函街道として知られる静岡県道11号熱海函南線が走り、熱海市から三島市や函南町中心市街地への動脈となっています。かつては十国峠を越える旧道が田代盆地の北西に伸びていましたが、鷹ノ巣山トンネルの開通により、熱海～函南間のアクセスが大幅に向上しました。現在では、旧道を通る車はほとんどありません。

盆地北部の地下には、JR東海道本線と東海道新幹線の線路（丹那トンネル・新丹那トンネル）が通っていますが、盆地内に鉄道駅はありません。また、丹那地区と他の地区を結ぶ公共交通機関もないため、一般客が訪れるには、自転車や自家用車、タクシーを利用するしかありません。

盆地外周の北東部には函南町立丹那小学校がありますが、中学校は地区内になく、函南町立函南中学校の校区に含まれます。通学困難を解消するため、スクールバスが運行されています。

富士山を望む高原地帯に位置し、伊豆や箱根などの保養観光地に隣接しているため、盆地南側の斜面には南箱根ダイヤランドなどの別荘地が広がっています。南箱根ダイヤランドは、1971年に分譲が開始された大型別荘地ですが、近年では定住化・高齢化が進んでいます。

産業

丹那盆地の主な産業は農業で、水稲・畑作と酪農が中心です。特に丹那牛乳は、この地域の特産品として知られています。盆地の北部には、丹那牛乳のロゴを冠した工場があります。

かつて交通不便だったため、農民の生活は貧しかったのですが、明治12年（1881年）に地主の川口秋平らが牧場を開き、アメリカからホルスタイン種を輸入しました。1890年には、仁田大八郎らとともに伊豆産馬会社を設立し、搾乳業を開始しました。馬の出荷はその後廃止されましたが、森永製菓の三島工場の操業などによって牛乳の販売が軌道に乗り、大正時代にかけて丹那盆地は酪農地帯として発展しました。

丹那盆地は、かつて山水沼沢に恵まれ、水稲やワサビなどを生産していましたが、1918年に始まった丹那トンネルの建設に伴い、大量の地下水が流出し始めました。1920年代には、渇水の深刻化に苦しむ村人たちの抗議によって、政府からの見舞金と鉄道省からの補償金が支給されました。この資金をもとに、丹那では酪農への転換・強化が図られました。

戦後間もない1947年には、函南東部農協の前身となる函南村東部畜産農協が設立されました。1955年には牛乳工場が操業を開始し、1958年には学校給食への導入によって販路を拡大しました。その後も、乳製品加工事業などを展開し、今日に至るまで地域の一大産業となっています。

観光施設としては、丹那牛乳の工場に隣接して酪農王国オラッチェが1997年にオープンし、特産品の販売や酪農体験事業などが行われています。また、2012年のジオパーク成立に伴い、断層公園を中心とした観光整備も進められています。

文化

丹那盆地では、猫踊りが伝統行事として知られています。これは、盆地北に位置する軽井沢の民間伝承をもとに、1988年から地域おこしとして始まったもので、2017年には30回目の開催を迎えました。かつては丹那地区のみで行われていましたが、現在では函南町全域の祭りとなり、毎年商店街や中学校、狩野川河岸などで「かんなみ猫おどり」の名で催されています。

2005年にNHK-BS2で放送されたアニメ「絶対少年」では、丹那盆地をモデルにした「田菜」という集落が舞台となりました。脚本の伊藤和典が熱海に在住しており、田舎を舞台にした物語を考えていた際に、丹那盆地を訪れたことがきっかけだったそうです。このアニメでも、猫踊りの祭りとその伝承が描かれています。

また、ホラー小説・映画『リング』に登場する、呪いのビデオの最初の被害者が宿泊した貸し別荘は、南箱根ダイヤランドの建物がモデルになっています。

関連項目

丹那断層
丹那トンネル
丹那牛乳
猫踊り

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