狩野川

狩野川（かのがわ）は、静岡県の伊豆半島を流れる一級河川であり、狩野川水系の本流です。流域面積は852平方キロメートルで、静岡県全体の約11%を占めています。鮎の友釣り発祥の地という説があるほど、友釣りが盛んなことで知られており、「狩野川を制すれば全国を制す」とまで評されています。また、源流部では天城山の清流を利用したワサビ栽培が盛んに行われています。

特徴

狩野川は、伊豆半島の最高峰である天城山に源を発し、北へ流れます。沖積平野である田方平野を蛇行しながら流れ、沼津市付近で大きく向きを変えて駿河湾に注ぎます。静岡県内の主要河川で北流するのは狩野川のみで、これは、かつて島であった伊豆半島がフィリピン海[[プレート]]の移動によって本州側のプレートに衝突し隆起したことによるものです。

また、一級水系の大河川としては珍しく、河口付近でも川幅がそれほど広くならないという特徴があります。これは、大支流である黄瀬川が造り出した三島扇状地（黄瀬川扇状地とも呼ばれる）があるためです。さらに、水利用のための大型ダムがないことも、狩野川の数少ない特徴の一つです。

狩野川水系は、天城山に源を発し、伊豆半島中央部の支流を合わせながら北上し、田方平野に出ます。伊豆の国市古奈で狩野川放水路を分派し、さらに箱根山や富士山などを源とする来光川、大場川、柿田川、黄瀬川などを合わせ、沼津市において駿河湾に注ぎます。幹川流路延長は約46キロメートル、流域面積は852平方キロメートルです。

源流は天城山のほぼ中央に位置し、北斜面が狩野川源流、南斜面が河津川源流となっています。源流部には天然のブナ林が広がり、「天城山・水源の森」として水源の森百選に選定されています。天城山は年間降水量が3,000ミリメートルを超える多雨地帯であり、豊富な水量と良好な水質が古くから繊維業、製紙業、醸造業などの発展に貢献してきました。特に、天城山の清流を利用したワサビ栽培は、全国一の生産額を誇っています。一方で、標高差が大きく流れが急なことや、下流部で蛇行することもあり、古くから洪水が多発していました。

また、狩野川流域は火山地帯であり、箱根山、愛鷹山、富士山、天城山、達磨山などの第四紀火山や、新第三紀に形成された火山性地層からなる静浦山地などに囲まれています。そのため、流域の多くが脆弱な火山岩や火山噴出物で構成されており、大雨などで崩壊しやすいことが洪水の要因となっています。

名称の由来

狩野川の名称の由来には諸説あります。

最も一般的な説は、『日本書紀』に記された応神天皇5年（274年）に伊豆国で造られた船の名前「枯野（からの）」が、後に軽野（かるぬ）から「カヌ」に変わり、それが狩野川の名前になったという説です。現在でも、伊豆市の湯ヶ島地区の松ヶ瀬には、軽野の造船儀礼と深く関わっていた軽野神社が残されています。

その他には、焼畑農業を意味する「火野」（かの）に由来するという説や、江戸幕府の資金源であった金山が転訛して「金川」となり、それがさらに変化したという説もあります。

歴史

約6,000年前の縄文時代には、海面が現在よりも数メートル高かったため、現在の伊豆の国市付近まで入江が入り込み、古狩野湾を形成していました。その後、海面が低下し始めると、狩野川が土砂を堆積させ、現在の田方平野を形成していきました。

約1,000年前の狩野川は、自然堤防の状況から、現在の旧大仁町・旧韮山町付近では現在よりも東側を流れていたことが確認できます。また、旧伊豆長岡町では網目状に旧河道が分布しており、洪水のたびに流路が変わったことを示しています。当時、川の中には中州がいくつもでき、島のように「和田島」や「蛭ヶ小島（源頼朝の流刑地と伝わる）」などと呼ばれていました。その後、狩野川の流路は次第に西側に移り、鎌倉時代に守山の西に移されたと伝えられる「守山開削」によって、現在の流れとほぼ同様になったとされています。

その他にも、昭和期には沼津市の大平地区の湾曲部に捷水路が掘削されたり、狩野川放水路が建設されたりしています。

災害史

奈良時代以降、狩野川の水害に関する最も古い記録は、709年（和銅2年）の長雨による洪水で、稲苗に大きな被害が出たとされています。

狩野川台風と狩野川放水路

1948年（昭和23年）のアイオン[[台風]]の被害を受け、1949年（昭和24年）に放水路の開削を中心とした改修計画が立案され、1951年（昭和26年）6月から、中流の江間村（現伊豆の国市）から沼津市口野の江浦湾に向けて狩野川放水路の建設が始まりました。しかし、放水路の完成を待たずして、1958年（昭和33年）9月26日夜、関東地方に上陸した台風22号が伊豆半島を襲い、甚大な被害をもたらしました。特に狩野川流域での被害は甚大で、死者・行方不明者が1,000人を超えるほどでした。このため、この台風は狩野川台風と命名されました。放水路は狩野川台風の7年後である1965年（昭和40年）に完成しましたが、たとえ狩野川台風の前に完成していたとしても、放水路より上流部での被害が大きかったため、死者をなくすことはできなかったとされています。また、狩野川台風の被害が大きかった現伊豆の国市の神島地区では、川を直線化する神島捷水路が計画され、1960年（昭和35年）に着手し、これも狩野川放水路と同じ年に完成しました。

持越鉱山鉱滓ダムの決壊

1978年（昭和53年）の伊豆大島近海地震では、天城湯ヶ島町（現伊豆市）の持越鉱山の鉱滓ダムが決壊し、金製錬で排出されて堆積したシアン化合物を含む鉱滓が流出し、支流の持越川を経て狩野川に混入して汚染が広がりました。しかし、懸命の除染作業によって現在は清流を取り戻しています。

戦後の洪水記録

国土交通省が作成した複数の資料によると、戦後も狩野川では度々洪水が発生しています。

主な支流

狩野川の主な支流には、以下のものがあります。

黄瀬川
大場川

黄瀬川と大場川は、愛鷹山と箱根山の間の裾野市南端付近で最接近しますが、駿東郡長泉町を抜けてほぼ直線的に狩野川本川に合流する黄瀬川に対して、大場川は東の三島市中心部方面へと大きく迂回してから狩野川本川に合流しています。この不自然な流路には、約1万年前の富士山の噴火が影響しています。この噴火による溶岩流（三島溶岩流）が愛鷹山と箱根山の間を流れて三島市南西部付近までいたる台地を形成しており、2川はこの台地を避けるように東西に流れを変えているためです。

以下に、一級河川のみを下流側から順に記載します。

支流の滝

浄蓮の滝（本谷川）
万城の滝（地蔵堂川）
鮎壺の滝（黄瀬川）
五竜の滝（黄瀬川）
鮎返しの滝（大場川）
蜘蛛ヶ淵（沢地川）
旭滝（伊豆市大平）
雄飛滝（小山田川）

文化

鮎の友釣り

狩野川は鮎の友釣りが盛んであり、「狩野川を制すれば全国を制す」と評されるほどです。友釣りの発祥の地とも言われていますが、京都説などもあります。多くの文献で紹介されている説や根拠は以下の通りです。

江川家に伝わる「江川文庫」には、1832年（天保3年）の文書に、狩野川で友釣りが盛んになったことや、友釣りが「新規の漁事」として、天野堰所（現伊豆の国市）で2年ほど前に始まったことが記されています。
他にも、狩野川における友釣りの始まりが天野堰所だったと複数の記録に残っています。
また、伊豆市の大平にあった瀧源寺の虚無僧で、尺八の名手であった法山志定が発案したという伝承も残っています。

その他の文化

我入道の渡し（沼津市）：明治時代に始まり、現在は観光用。
こいのぼりフェスティバル（沼津市）：河口付近で行われるイベント。
川神浄（かわかんじょう）（伊豆の国市）：狩野川の水神を供養し、土地の安全を祈願する伝統行事。
ワサビ栽培（伊豆市）：畳石式栽培の発祥の地。

流域の自治体

本流：伊豆市、伊豆の国市、田方郡函南町、三島市、沼津市、駿東郡清水町
黄瀬川：御殿場市、裾野市、駿東郡長泉町

脚注

注釈

出典

関連項目

国土交通省
河川法
河川総合開発事業

外部リンク

河川整備基本方針狩野川水系 - 国土交通省
河川 - 国土交通省中部地方整備局沼津河川国道事務所

もう一度検索