久世広民

久世広民：貿易と改革の旗本

久世広民（くぜ ひろたみ）は、江戸時代中期から後期にかけて活躍した旗本です。1737年（元文2年）10月29日、もしくは1732年（享保17年）に誕生し、1800年（寛政11年）1月17日に没しました。通称は九郎、官位は従五位下丹波守に叙任されています。

長崎奉行としての活躍

浦賀奉行を歴任した後、安永4年（1775年）12月3日、久世広民は長崎奉行に就任しました（第65代）。長崎奉行として、彼は積極的な貿易政策を推進しました。具体的には、安永7年（1778年）には中国との貿易拡大を図り、花辺銀や人頭銭貿易を許可しました。

広民は、ただ貿易を拡大しただけでなく、その手腕はオランダ商館長をも感服させるほどでした。彼は開明的な人物として知られ、長崎で得た海外情報は、親交のあった田沼意次に提供していたとされています。また、オランダ人の待遇改善にも尽力するなど、国際的な視野を持った外交官としての資質も持ち合わせていました。

天明の大飢饉と米価対策

天明2年（1782年）、日本は深刻な飢饉に見舞われました。米価の高騰を招き、盗賊や放火事件が頻発する事態となりました。この状況に対し、広民は近隣の諸侯に協力を要請し、米の回漕を依頼することで、米価の抑制に成功しました。この行動は、飢饉に苦しむ民衆への彼の深い思いやりを示すものです。天明3年（1783年）9月、江戸に戻る際には、町民から惜しみない見送りをされ、その人望の厚さが伺えます。

寛政の改革への貢献

天明4年（1784年）3月12日、久世広民は勘定奉行に就任します。この頃、松平定信による寛政の改革が進められていましたが、広民は棄捐令（きぜんれい）の法案作成に携わるなど、改革の中枢を担いました。また、猿屋町御貸付金会所を設置するなど、具体的な政策にも積極的に関わっています。

寛政4年（1792年）3月10日には、関東郡代伊奈忠尊が改易されると、広民は関東郡代を兼務し、5人の郡代付代官を統括する立場となりました。さらに、寛政6年（1794年）7月17日には、ロシアの情報収集のため江戸に滞在を余儀なくされていた大黒屋光太夫に新居を提供するなど、寛大な姿勢も見せています。

寛政9年（1797年）6月5日、久世広民は致仕しました。彼の生涯は、長崎奉行としての貿易拡大、天明の大飢饉における米価対策、そして寛政の改革における貢献と、多岐にわたる活躍で彩られています。これらの功績は、彼が開明的な人物であり、民衆への深い愛情を持っていたことを示しています。また、国際的な視野を持ち、外交や貿易にも優れた手腕を発揮した、稀有な旗本であったと言えるでしょう。その人となりは、多くの民衆から慕われ、歴史に名を残す人物となりました。

もう一度検索