久保浩

久保 浩（くぼ ひろし）は、昭和後期から令和にかけて活動した日本の歌手です。本名を久保 正憲（くぼ まさのり）といい、1946年（昭和21年）11月1日に福岡県北九州市で誕生しました。妻は同じく歌手として知られる水沢夕子です。

彼のキャリアは、作曲家・吉田正の門下生となったことから始まります。1964年（昭和39年）8月、ビクターレコードよりシングル「霧の中の少女」で鮮烈なデビューを飾りました。このデビュー曲は、当時の青春歌謡を代表する一曲となり、アメリカの著名なポップス歌手であるペギー・マーチによって日本語でのカバー版が発表されるほどの人気を博しました。同年10月には「白百合悲し君に似て」をリリースするなど、その後もコンスタントにシングルを発表し、青春の甘さや切なさを歌い上げ、若者を中心に支持を集めました。

しかし、歌手としての活動を一時休止した時期があります。その間、彼は実業家としての一面を見せました。具体的には、鹿児島市や福山市でパブを経営したり、1987年（昭和62年）頃からは岡山に拠点を移し、ラウンジ「多恋人（タレント）」やカラオケスタジオの経営を手掛けました。活動の場を九州や岡山などに移しながらも、音楽への情熱は失わず、地元での歌手活動を継続していました。

2000年代に入ると、再び全国的なステージに立つ機会が増えていきます。2009年（平成21年）3月には銀座博品館劇場でのイベントに出演し、健在ぶりを示しました。特に注目を集めたのは、NHKの音楽番組への出演です。2010年（平成22年）8月には、NHKホールで開催された「思い出のメロディー」に登場し、多くの人が待望していたデビュー曲「霧の中の少女」を熱唱しました。翌2011年（平成23年）1月には「NHK歌謡コンサート」にも出演し、改めてその歌声が注目されました。同年11月には、ゆうぽうとで行われた「日本歌手協会歌謡祭」に、俳優の西田敏行らと共に参加するなど、精力的に活動を続けました。2014年（平成26年）6月には再び「NHK歌謡コンサート」の企画「特集 作曲家 吉田正の世界」に出演し、師である吉田正の楽曲として「霧の中の少女」を再び披露しました。

作品としては、デビュー曲の他にも「白百合悲し君に似て」「恋物語」「僕のマリアよ」「愛の合唱」「断崖のトランペット」「哀愁の街に霧が降る」など、1960年代を中心に多数のシングルを発表しています。また、歌手活動以外では、1965年（昭和40年）にTBSで放送された「ビクター夢のスタジオ」で司会を務めたり、1973年（昭和48年）にはフジテレビのドラマ「新選組」第11話に惣吉役で出演するなど、テレビの世界でも活躍しました。

晩年も音楽活動への意欲を持ち続けていましたが、2025年（令和7年）4月16日、脳出血による体力の衰弱のため、岡山市内の病院でその生涯を閉じました。享年78でした。彼の死去は、同年5月28日に日本歌手協会によって正式に公表され、多くのファンが別れを惜しみました。青春歌謡が輝いていた時代にデビューし、その後も長く歌い続けた久保浩は、日本の歌謡界に確かな足跡を残しました。

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