久保田酒造 (神奈川県)

久保田酒造

神奈川県相模原市緑区に位置する久保田酒造は、弘化元年（1844年）に創業した長い歴史を持つ酒蔵です。相模原の豊かな自然に恵まれたこの地で、「伝統と基本に忠実に」という哲学のもと、丹沢山系の清らかな伏流水を用いて、丁寧な日本酒造りを行っています。

歴史と久保田家

久保田家の祖は、もともと現在の厚木市にあたる依知村で養蚕業を営んでいましたが、相模川の水害から避難するため、万治年間（1658-1661年）に、現在の相模原市緑区根小屋、串川沿いの地へと移り住んだと伝えられています。この地で郡内有数の豪農としての地位を築き、幕末の1844年に酒造業を開始しました。大正14年（1925年）には法人化し、久保田酒造株式会社となりました。

かつては「楽水」を主要な銘柄としていましたが、後に「相模灘」が蔵を代表する銘柄となります。酒造りは長らく番頭によって仕切られていましたが、1990年代に当時の番頭が亡くなった際に廃業も検討されました。しかし、当時会社員であった久保田家の当主が、平成9年（1997年）に48歳で蔵元を継ぐ決断をしました。当初は岩手県から杜氏を招いていましたが、平成18年（2006年）以降は、現当主の息子である久保田晃氏（専務）と、その弟の徹氏が兄弟で杜氏を務め、新たな時代の酒造りを担っています。

久保田家は、鎌倉時代に北条氏の御家人であったと伝えられる古い家柄です。江戸時代には両替商に加え、織物や炭の問屋なども手広く手掛け、昭和・平成以降も様々な事業を展開しています。平成時代前半には、当時の社長であった安藤千正氏が県酒造組合の役員や税務関連の公職を兼任するなど、地域の発展にも貢献してきました。

敷地内には、久保田家累代の墓地や、酒と水にゆかりの深い熊野神社の社殿が静かに佇んでいます。また、母屋は「神奈川の建築100選」に選ばれており、その歴史的な佇まいから映画のロケ地としても利用されています。

主な銘柄と特徴

相模灘（さがみnada）：蔵の看板銘柄。相模原市緑区の豊かな自然に育まれた丹沢山系の伏流水を使用しています。相模原市への合併後は「相模原の地酒」の一つとして親しまれています。銘柄名は、かつて蔵の前に流れる相模川から酒を船で運び出したことに由来すると言われています。
相模灘本醸造：酒米に美山錦とアケボノを使用。精米歩合66パーセントで、アルコール分は15.8パーセントです。
相模灘純米吟醸：酒米は美山錦と若水を厳選。精米歩合54パーセントで、アルコール分は17.4パーセントとやや高めです。
喜楽三年醸造：日本酒の製造過程で生まれる酒粕を原料とした本格焼酎です。特筆すべきは、ワイン樽で3年間じっくりと寝かせることで生まれる、まろやかでとろりとした独特の味わいです。

地域との連携と新たな試み

久保田酒造は、地域との繋がりを大切にした様々な取り組みを行っています。その代表例が、純相模原産の日本酒造りです。平成27年（2015年）、津久井在来大豆の会の代表である石井好一氏が、「津久井で育った米で、津久井の酒蔵が仕込んだ日本酒を造りたい」という思いから久保田酒造に打診し、蔵元も快諾。令和2年（2020年）にこのプロジェクトが本格的にスタートしました。

酒米には、相模原の土壌に適した「山田錦」が選ばれ、特に令和元年（2019年）の台風19号による土砂崩れで被害を受けた相模原市緑区青根地区の水田を復興させ、そこで栽培されました。令和3年（2021年）にようやく日本酒の仕込みに必要な量の山田錦が収穫でき、翌令和4年（2022年）には、初めてとなる純相模原産の日本酒「相模灘 相模原×山田錦」が、四合瓶で1,000本限定で誕生しました。精米歩合60％で、ラベルには地域と米の結びつきを示す「相模原×山田錦」の文字が記されています。その味わいは、白ワインを思わせるような爽やかな酸味が特徴です。

また、相模原市南区にある相模女子大学とは産学連携を深めています。大学のキャンパスで収穫された梅の実を、久保田酒造の純米吟醸酒「相模灘」で漬け込んだオリジナルの梅酒「翠想（すいそう）」を、平成26年（2014年）から共同で企画・販売しています。学生たちは、収穫した梅の実の下準備や、完成した梅酒のラベル貼りといった工程にも関わり、酒造りや地域産業について学ぶ貴重な機会を得ています。

評価

久保田酒造の酒は、過去の鑑評会でも高い評価を受けています。昭和55年（1980年）の東京国税局鑑評会では、本格焼酎「喜楽」が金賞を受賞。また、平成5年（1993年）の東京国税局鑑評会では、清酒「大吟醸相模灘」が金賞を受賞するなど、日本酒と焼酎の両方で品質の高さが認められています。

アクセス・見学

所在地：神奈川県相模原市緑区根小屋702
アクセス：JR橋本駅よりバスで約30分、バス停「無料庵」下車後徒歩1分
見学：要予約で可能です。

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