久坂葉子

久坂葉子（くさか ようこ）

久坂葉子は、昭和初期に神戸で生まれた小説家、詩人。川崎財閥の血筋を受け継ぐも、その短い生涯は波乱に満ちていました。わずか21歳で自ら命を絶った彼女の作品は、戦後の社会情勢や、没落する名門一家の苦悩、そして少女の繊細な心の葛藤を描き出しています。

生涯

1931年、久坂葉子は神戸で川崎財閥一族の娘として生を受けました。幼少期は贅沢な生活を送る一方で、自伝的小説『灰色の記憶』にも描かれているように、万引きや嘘をつくなど、少女らしい反抗的な一面も持ち合わせていました。女学校時代には倫理教師に反発し、授業をサボって闇市を徘徊するなど、不良少女としての一面も覗かせました。

14歳で終戦を迎えると、財閥解体によって生活は一変。父親が公職追放となり、苦しい生活を余儀なくされました。神戸山手高等女学校を経て相愛女子専門学校（現在の相愛大学）ピアノ科に進学するも、中退。16歳から数度にわたる自殺未遂を繰り返します。その後、職を転々としながら、文筆活動を開始。島尾敏雄の紹介で雑誌『VIKING』に参加し、富士正晴の指導を受けました。

1950年、没落する名門家に生きる息苦しさを綴った『ドミノのお告げ』で芥川賞候補となりますが、落選。選考委員からの酷評を受け、大きなショックを受けました。その後も創作活動を続けましたが、自己嫌悪に陥り、『VIKING』を脱退。ラジオ局で働くなど、様々な職を経験します。恋愛もまた、彼女の心を大きく揺さぶりました。ラジオ関係者との不倫関係に苦悩し、島尾敏雄との関係を疑われるなど、複雑な人間関係に翻弄されました。

1952年、遺作となる『幾度目かの最期』を書き上げ、恋人に原稿を託した後、阪急六甲駅で列車に飛び込み自殺。21歳という若さで、自ら命を絶ちました。遺作は、3人の恋人への思い、一族への批判、そして自殺の動機が綴られた告白文のような作品でした。

作品の特徴と評価

久坂葉子の作品は、自身の生い立ちや経験に基づいた私小説的な要素が強く、上流階級の生活や戦後の社会情勢、そして少女の繊細な感情がリアルに描かれています。特に、没落していく名門一家の息苦しさや、社会への反抗、自己嫌悪といった感情は、多くの読者の共感を呼びました。

しかし、その作風は、発表当時から賛否両論がありました。露悪的な表現や、私生活を赤裸々に綴った内容に批判が集まる一方で、その率直な感情表現や、社会への鋭い視点は、高く評価されました。

死後の影響

久坂葉子の死後、彼女の作品は再評価され、没後も多くの研究者や作家によって研究されています。島尾敏雄や前田純敬といった作家が、彼女の死を題材にした作品を発表。富士正晴は、久坂葉子に関する書籍を複数刊行し、彼女の生涯と作品を後世に伝えました。

2000年代に入ってからは、全集や作品集が刊行され、若い世代の読者からも注目を集めています。その作品は、現代社会においても、生きづらさを抱える人々の心に深く響き、共感を呼んでいます。

主な作品

灰色の記憶
ドミノのお告げ
華々しき瞬間
幾度目かの最期

参考文献

富士正晴『贋・久坂葉子伝』
柏木薫・志村有弘・久坂葉子研究会 編『神戸残照 久坂葉子』

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