久恒秀治

久恒秀治（ひさつね しゅうじ、1911年 - 1982年）は、日本の日本庭園研究、造園、作庭、そして庭園に関する評論といった多方面で活躍した人物です。

明治44年に東京四谷で生まれた久恒は、建築家である久恒治助を父に持ちました。1928年からは洋画を岡田三郎助に師事するなど、芸術への関心を示す初期の歩みが見られます。造園の道に進むべく、1933年に東京高等造園学校（現在の東京農業大学造園科学科の前身）を卒業。その後、龍居松之助が主宰する龍居庭園研究所で研鑽を積みました。

彼の人生の大きな転換点の一つは、1934年の京阪地方の大風水害でした。この災害後、彼は文化財調査要員として京都府庁内の京都風致復興会の嘱託となります。京都に移住した久恒は、風致復興会の業務に携わる傍ら、古典や書道、茶の湯といった日本の伝統文化を深く学びます。同時に、彼は独力で京都に残る古名園の実測を開始しました。

当時の京都の名園は荒廃が進んでおり、その現状を憂慮した久恒は、将来的な修復工事に役立てるため、きわめて詳細な50分の1の縮尺で測図を製作することを決意します。この地道な作業は1941年頃までに御所関係の庭園を除いてほぼ完了し、その後の文化財庭園の修復に欠かせない基礎資料となりました。

久恒は単なる記録者にとどまらず、文化財庭園の保全活動にも積極的に関わります。天龍寺、等持院、智積院といった名園の修築の必要性を寺院や当時の文部省に強く訴えかけ、工事の実現を促し、その監督にあたりました。また、この時期には母校である造園学校の講師も務め、後進の指導にもあたっています。

1942年から終戦までの期間は応召されましたが、復員後、再び京都の庭園に関わる仕事に戻ります。1947年には京都府の委嘱を受けて西芳寺庭園の修理を担当。翌1948年には京都府知事の委嘱により、金閣寺（鹿苑寺金閣）および銀閣寺（慈照寺銀閣）の庭園修理責任者となりました。この年以降も、天竜寺、西芳寺、西本願寺、智積院、清水成就院、南禅寺方丈、南禅院、金地院、大徳寺高桐院、高台寺など、数多くの著名な古庭園の修理・修復に精力的に携わりました。

一方で、久恒は新しい庭園の作庭も手がけています。大磯にある吉田茂邸の日本庭園では邸宅周辺部分を担当し、他にもホテル熱海ガーデンや、1950年以降は甲府昇仙閣をはじめとする個人の依頼による庭園をいくつか設計・施工しました。

彼のキャリアの後半、特に1951年以降は、日本の庭園史において最も重要な存在の一つである桂離宮の研究に集中的に取り組みました。この長年の研究成果が認められ、1962年には桂御所の研究によって農学博士号を取得しています。

久恒は研究・実務だけでなく、評論活動も行いました。1953年から1956年にかけて、雑誌『芸術新潮』に日本庭園に関する論考を複数発表し、庭園の魅力や歴史、現状について広く発信しました。また、著作としては、『桂御所』（1962年、新潮社）、『京都名園記』全三巻（1967年-1969年、誠文堂新光社）、『作庭記秘抄』（1979年、誠文堂新光社）などがあります。これらの著作は、久恒が培った古名園に関する深い知識と研究成果を体系的にまとめたものであり、現在でも日本庭園研究において重要な文献とされています。

国際的な交流もあり、彫刻家イサム・ノグチが手掛けた「ユネスコのための庭園」では、専門家としてアドバイスを提供しました。このように、久恒秀治は、荒廃する日本の古名園の記録と保存に情熱を燃やし、実測、修理、研究、作庭、評論、著作といった多岐にわたる活動を通じて、日本の庭園文化の継承と発展に計り知れない貢献をした人物と言えるでしょう。

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