西芳寺

西芳寺（苔寺）

西芳寺は、京都市西京区にある臨済宗系の単立寺院で、山号を洪隠山と称します。本尊は阿弥陀如来で、開山は行基と伝えられていますが、中興の開山は夢窓疎石です。元々は天龍寺の境外塔頭でしたが、現在は独立した寺院となっています。特に約120種もの苔に覆われた美しい庭園は「苔寺」として広く知られ、その文化的価値から「古都京都の文化財」としてユネスコ世界遺産に登録されています。

歴史

西芳寺の起源は飛鳥時代に遡ります。伝承によれば、この地には聖徳太子の別荘があり、太子自らが制作した阿弥陀如来像が祀られていたとされています。奈良時代に入ると、聖武天皇の勅願を受けた行基が、天平3年（731年）にこの地を寺院へと改め、「西方寺」と名付けました。当初は法相宗の寺院であり、阿弥陀如来を本尊に、観音菩薩と勢至菩薩を脇侍としていました。この寺院は、畿内49院の一つとして栄えたとされています。

平安時代初期には、真如法親王がこの地で修行を行い、空海も訪れて放生会を執り行ったと伝えられています。鎌倉時代には、中原師員によって再興され、浄土宗に改宗されました。この時、法然によって本尊に金泥が施されたとされています。その後、親鸞もこの寺に滞在し、愚禿堂を建立しました。北条時頼も桜堂を建立しましたが、建武年間（1334年 - 1338年）には再び荒廃しました。

暦応2年（1339年）、摂津親秀によって再興され、夢窓疎石が招かれ臨済宗に改宗されました。この際、「西方寺」から「西芳寺」へと寺名が改められました。夢窓疎石は作庭の名手でもあり、この時に寺の庭園を整備したとされています。康永元年（1342年）には光厳天皇、永徳2年（1382年）には足利義満が訪れ、義満は西芳寺を模して鹿苑寺（金閣寺）を創建したとされています。

応仁の乱（1467年 - 1477年）によって焼失しましたが、その後、本願寺の蓮如によって再興されました。足利義政も指東庵を再建し、西芳寺と鹿苑寺を模して慈照寺（銀閣寺）を創建しました。安土桃山時代には兵乱によって再び焼失しましたが、織田信長によって再建されました。江戸時代には洪水によって荒廃し、現在の苔庭になったのは江戸時代末期のこととされています。幕末には岩倉具視が一時隠棲しました。

明治維新の神仏分離・廃仏毀釈によって境内地は狭められましたが、1878年（明治11年）に再興され、1928年（昭和3年）より庭園が一般公開されました。1977年（昭和52年）からは、事前予約制となり、宗教行事への参加が義務付けられています。2021年（令和3年）からは、インターネットによる予約も可能となりました。Appleの創業者であるスティーブ・ジョブズも、この寺を愛した一人として知られています。

庭園

西芳寺の庭園は、国指定史跡および特別名勝に指定されており、夢窓疎石によって作庭されました。上段の枯山水庭園と、下段の池泉回遊式[[庭園]]の二つから構成されています。上段の枯山水庭園は、日本最古とされる石組みが残っており、夢窓疎石当時の面影を今に伝えています。下段の庭園は、黄金池（心字池）を中心とした回遊式[[庭園]]で、100種類以上もの苔が池の周囲を埋め尽くしています。この苔庭が「苔寺」と呼ばれる所以となっています。

庭園には、朝日ヶ島、夕日ヶ島、長島（霞島）の三つの島があり、瑠璃殿、釣寂庵、湘南亭、潭北亭、貯清寮などの建築物も点在しています。特に邀月橋は、亭を持つ橋として知られ、橋を渡ると大海に浮かんだような感覚を味わえるとされています。山腹には指東庵があり、巨石を組み、滝を象徴しています。これらの建築的要素が、庭園の景観に奥行きを与えています。

境内

境内東側には、黄金池を中心とした苔の庭園が広がっており、本堂（西来堂）、書院、三重納経塔などが配置されています。庭園内には、湘南亭、少庵堂、潭北亭の三つの茶室があり、それぞれ異なる趣を持っています。境内北側には、枯山水の石組みと、開山堂である指東庵が建っています。また、高浜虚子の句碑や大佛次郎文学碑も建立されています。

主要な建物

本堂（西来堂）：1969年（昭和44年）に再建され、本尊の木造阿弥陀如来坐像を安置しています。襖絵は堂本印象が描きました。
書院
三重納経塔：1978年（昭和53年）に建立され、信者による写経が納められています。本尊は薬師如来です。
観音堂
庫裏
少庵堂：1920年（大正9年）築の茶室で、千少庵の木像を祀っています。
湘南亭：重要文化財に指定されており、夢窓疎石の時代に建てられたと伝えられる茶室です。幕末には岩倉具視が隠棲しました。
潭北亭：1928年（昭和3年）に陶芸家の真清水蔵六により寄進された茶室です。
鎮守堂
向上関：門
指東庵：開山堂

文化財

西芳寺には、数多くの文化財が存在します。重要文化財としては、湘南亭、絹本著色夢窓疎石像が指定されています。また、庭園全体が国指定史跡・特別名勝に指定されており、その文化的価値は非常に高いです。

拝観

西芳寺の拝観は、事前予約制となっています。1977年（昭和52年）以降、往復はがきによる事前予約が必要でしたが、2021年（令和3年）6月1日からはインターネットによる予約も可能になりました。拝観には写経などの宗教行事への参加が必須ですが、時間がない場合は省略も可能です。写経冥加料は、往復はがき予約の場合は3,000円、インターネット予約の場合は4,000円となっています。

アクセス

京都バス：「苔寺・すず虫寺」下車すぐ
* 阪急嵐山線：松尾大社駅下車、徒歩20分

駐車場は付近の民間有料駐車場を利用してください。

その他

2015年（平成27年）4月には、茶室に安置されていた阿弥陀如来像が盗難されるという事件が発生しています。

西芳寺は、その歴史と文化的な価値、そして美しい庭園によって、多くの人々を魅了し続けている特別な場所です。

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