久慈市民歌

久慈市民歌／山形村村民歌

岩手県久慈市には、かつて市のシンボルとして親しまれた「久慈市民歌」が存在します。これは旧久慈市が制定した歌であり、作詞は滝田常晴氏、作曲は坂本良隆氏によるものです。本項ではこの市民歌の歴史と、2006年の新設合併後の扱い、そして旧九戸郡山形村で制定されていた村民歌についても解説します。

久慈市民歌の制定経緯

「久慈市民歌」は、1954年（昭和29年）に旧久慈町が長内町を含む5つの村と合併し、新たに久慈市として市制を施行したことを記念して誕生しました。市では市民歌の歌詞を広く公募する懸賞募集を実施しました。その結果、富士製鐵釜石製鉄所に勤務していた滝田常晴氏の応募作品が入選詞として選ばれました。そして、盛岡市出身で当時島根大学の教授を務めていた作曲家の坂本良隆氏に作曲が依頼されました。これらの経緯は、翌年2月11日発行の『久慈市広報』で詳しく紹介されています。

合併前後の使用状況

久慈市と山形村の新設合併を目前に控えた2004年（平成16年）頃から、市民歌は防災無線で放送されるようになります。この際、馬頭琴によるアレンジが施された演奏が用いられました。この防災無線での放送は、旧市域において合併後も一時的に継続されていました。しかし、2013年（平成25年）7月1日からは、久慈市内を舞台にしたNHKの連続テレビ小説『あまちゃん』のテーマソングに防災無線で流れる曲が変更され、「久慈市民歌」の演奏は聞かれなくなりました。

新設合併後の位置づけと課題

2006年（平成18年）3月6日、久慈市は山形村と新設合併し、現在の（新）久慈市が発足しました。合併に先立ち、久慈市・山形村合併協議会では、両自治体がそれぞれ制定していた市民歌および村民歌について議論がなされました。協議会では、「新しい市の一体感や市民の愛着を深めるため、新市において調整する」という方針が取り決められました。

法的な観点では、新設合併によって発足した自治体は、合併前の自治体とは別の存在として扱われます。そのため、旧久慈市が制定した「久慈市民歌」は、（新）久慈市の発足と同時に法的にはその効力を自動的に失った、と解釈されます。しかし、前述の通り、旧市域では合併後も8年近くにわたって旧市民歌の演奏が使用され続けるという状況が続いていました。

合併から日が浅い2008年（平成20年）頃からは、市議会でも市民歌の扱いに関する問題が指摘されるようになります。岩手県内で同時期に新設合併した他の多くの自治体が比較的早期に新しい市町村歌を制定したのに対し、久慈市では合併から15年以上が経過してもなお、旧市民歌を継続使用するのか、あるいは新たな市民歌を制定するのかについて、明確な方針が定まっていない状態が続いています。

山形村村民歌

合併によって廃止された旧九戸郡山形村にも、独自の歌がありました。「山形村村民歌」と呼ばれるこの歌は、かつて山形村によって制定されたものです。久慈市・山形村合併協議会の資料には「昭和30年代半ばに制定」と記載されていましたが、2022年（令和4年）2月15日の定例市議会における遠藤譲一市長の答弁では、より具体的に1977年（昭和52年）11月22日が制定日であると述べられています。これは、歌の選定から正式な制定告示までにおよそ20年程度の期間があった可能性を示唆しています。

この山形村村民歌も、奇しくも「久慈市民歌」と同じく滝田常晴氏が作詞を手掛けました。作曲は、岩手大学教育学部教授を務めていた千葉了道氏（1915年 - 1988年）が担当しています。1969年（昭和44年）には、村制80周年を記念してこの村民歌のシングル盤が作成されています。前述の久慈市・山形村合併協議会での申し合わせに基づき、山形村村民歌も新設合併と同時にその効力を失い、廃止されました。

まとめ

このように、久慈市を巡る自治体歌の状況は複雑です。旧久慈市民歌は法的には失効しつつも長らく使用が続けられ、新市民歌に関する方針は未定。旧山形村村民歌は既に廃止されています。市民に広く親しまれる新しい久慈市の歌が今後誕生するのか、その動向が注目されます。

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