久留米市の歌

久留米市の歌（1951年制定）

福岡県久留米市には「久留米市の歌」という市歌が二つ存在します。一つは1951年（昭和26年）に制定された歌であり、もう一つは平成の大合併後の2005年（平成17年）に「ふるさとのささやき 〜新久留米市の歌〜」として制定された歌です。これらは新しい歌が古い歌に取って代わったわけではなく、現在も両方が市の歌として併存するという珍しい状態にあります。本稿では、このうち特に1951年に制定された「久留米市の歌」について、その背景や歴史、現在の位置づけを中心に解説します。

制定の背景と経緯

1951年制定の「久留米市の歌」は、1950年（昭和25年）にNHK福岡放送局が開局20周年を迎えたことを記念する事業の一環として誕生しました。同局が西日本新聞社と連携し、福岡市、大牟田市、そして久留米市の三市と合同で、それぞれの市歌を選定して各市に寄贈するという企画が進められたのです。当時、福岡市と大牟田市には戦前から市歌が存在していましたが、終戦後の占領下でその演奏機会が失われており、実質的に機能していませんでした。一方、久留米市にはそもそも市歌が存在していませんでした。こうした状況下で、新たな市歌制定への機運が高まりました。

歌詞・曲の選定

市歌選定の最終審査は、企画開始の翌年である1951年1月25日に、福岡市内の岩田屋本店で行われました。三市の市歌が同時に審査される中で、「久留米市の歌」の歌詞としては、秋田県在住の花岡俊躬氏の応募作が採用されました。花岡氏は、この約2年前に発表された東京消防庁の庁歌「東京消防歌」で作詞の採用経験を持つ人物でした。作曲は、久留米と深いつながりを持つ音楽家、團伊玖磨氏に委嘱されました。團氏は、父親が地元の放送局である九州朝日放送の会長を務め、妹がブリヂストン創業家の石橋家に嫁ぐなど、久留米とは縁が深い人物であり、後に合唱曲「筑後川」を作曲することでも知られています。また、選ばれた歌の編曲は、久留米で医師として働きながら音楽家としても活動していた本間四郎氏が担当しました。

市民への周知と史料の現況

こうして制定された「久留米市の歌」は、同時期に選定された「福岡市の歌」「大牟田市の歌」と共に、NHKラジオのローカル放送で紹介され、市民への浸透が図られました。具体的には、当時のNHKラジオ年鑑によれば、午後7時20分から7時30分の時間帯に演奏されていた記録があります。

こうした制定に関する詳細な経緯は、1996年（平成8年）に刊行された『久留米市史』第11巻にも記述されています。しかし、久留米市役所においては、制定に直接関わった西日本新聞社からの取材に対し、「当時の資料が残っておらず不明」と回答したと報じられており、公的な記録としては限定的なようです。

合併後の扱い

平成の市町村合併により、久留米市は2005年（平成17年）に浮羽郡田主丸町、三井郡北野町、三潴郡城島町、三潴郡三潴町の3郡4町を編入しました。合併協議会に参加した1市4町のうち、公的な市町村歌を制定していたのは久留米市のみでした。他の4町では、地域ごとの音頭や小唄などが歌われていたのが一般的でした。

今回の合併は、既存の自治体の法人格が引き継がれる編入合併方式であったため、特別な取り決めをしなければ、従来の「久留米市の歌」がそのまま市歌として存続する見込みでした。しかし、合併協議会での議論の結果、従来の歌を廃止せず存続させると同時に、新たに市歌を制定し、二つの歌を併存させる方針が決定しました。

一つの自治体に複数の市歌が存在するのは全国的にも珍しいケースとされています。中核市においては、久留米市の他に郡山市や金沢市、長崎市などで同様の事例が見られます。

現在の活用と音源

現在、1951年制定の「久留米市の歌」は、市の表彰式や各種式典など、公的な行事において演奏されています。2005年に新しい市歌が制定されたことにより、その演奏頻度は以前よりは減ったものの、市役所庁舎内などで耳にする機会もあり、市歌としての位置づけは保たれています。

記録された音源としては、福岡市のシンガー・レコードが発売したLP盤『筑後川』（規格品番：LRs-274）のB面トラック1に、久留米音響合唱団による歌唱が収録されたものが存在します。

なお、久留米市に編入された旧町で歌われていた様々な音頭や小唄などは、地域の歌として現在もそれぞれの地域で大切に活用されています。

1951年制定の「久留米市の歌」は、戦後復興期において、地域の文化振興と市民の一体感を醸成するために企画され、多くの人々の協力を得て誕生した歴史的な歌と言えるでしょう。新しい市歌と共に、これからも久留米市のシンボルとして歌い継がれていくことが期待されます。

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