久野暲

久野暲（くの すすむ）

久野暲は、1933年8月11日に東京で生まれた日本の著名な言語学者、著作家であり、ハーバード大学の名誉教授です。彼の学術的な貢献は、言語学の分野に大きな影響を与えており、特に日本語の文法構造に関する研究で知られています。

生い立ちと学歴

久野暲は、英語学者であり愛知県立女子大学の学長を務めた久野朔郎の息子として生まれました。また、哲学者である久野昭や、経済学者で元兵庫県副知事の小笠原暁を実兄に持ちます。小笠原暁と共に、後に株式会社ロゴヴィスタを設立しました。

東京大学では、服部四郎の指導のもとで言語学を学び、1956年に文学部言語学科を卒業、1958年には同大学院の修士課程を修了しました。大学院修了後は、ドラヴィダ語の研究に焦点を当てていましたが、初期のチョムスキー信奉者であった黒田成幸の影響を受け、変形文法の研究へと進みました。

ハーバード大学での研究

1960年、機械翻訳プロジェクトのためにハーバード大学に着任し、1964年に博士号を取得。その後は同大学で言語学の研究と教育に尽力しました。ハーバード大学における言語学の名誉教授として、多くの研究者を育成し、言語学の発展に貢献しています。

機能的構文論

久野暲は、談話と機能の観点から統語論を論じる「機能的構文論」を確立したことで知られています。この理論は、文の意味や解釈が、文の構造だけでなく、文が使われる文脈や話し手の意図によっても決定されるという考え方に基づいています。特に、日本語の動詞の統語論、状態動詞の分析、格標示と意味的相関の研究は、言語学における重要な業績として高く評価されています。久野の研究分野は、統語論、意味論、語用論、計算言語学、談話研究、漢字処理と非常に多岐にわたります。

『The Structure of the Japanese Language』

久野の代表的な研究書である『The Structure of the Japanese Language』（日本語の構造）は、日本語の文法に関する革新的な文献として知られています。この著書で、久野は従来の日本語文法が見過ごしてきた、あるいは説明できなかった現象に焦点を当て、日本語の本質的な特徴を明らかにしました。特に、SOV型の語順が日本語にどのような影響を与えているかを詳しく分析し、以下の4つの特徴との関連性を指摘しました。

1. 前置修飾ではなく後置修飾であること
2. 構文木が左再帰的に深まること
3. 等位接続における動詞句の削除パターンが逆向きであること
4. 疑問詞を文頭に置く制約がないこと

久野は、変形文法の考え方を導入し、従来の文法規則では説明できない例を挙げ、伝統的な文法理論では捉えきれなかった日本語の文法構造を明らかにしました。この著書は、「非文法的文の文法」という新たな視点を提供し、日本語研究に大きな影響を与えました。

主な著作

久野暲は、数多くの著作と論文を発表しており、その詳細なリストは記念論文集に掲載されています。著書、共著書は計6冊、編著と研究報告、訳書は計17、そして主著論文と共著論文は120編に及びます。以下は主な著作の一部です。

Kuno, Susumu (1973). The structure of the Japanese language. Cambridge, MA: MIT Press.
久野暲 (1973) 『日本文法研究』 大修館書店、東京。
久野暲 (1978) 『談話の文法』 大修館書店、東京。
久野暲 (1983) 『新日本文法研究』 大修館書店、東京。
Kuno, Susumu (1987) Functional Syntax: Anaphora, Discourse, and Empathy. Chicago: University of Chicago Press.
久野暲、高見健一 (2005) 『文の意味』 くろしお出版、東京。
高見健一、久野暲 (2006) 『日本語機能的構文研究』大修館書店、東京。

記念論文集

久野暲の業績を称え、2冊の記念論文集が出版されています。これらの論文集には、久野の研究に影響を受けた多くの研究者による論文が収録されており、彼の学術的な貢献の大きさを物語っています。

Function and Structure: In Honor of Susumu Kuno
* Syntactic and Functional Explorations: In Honor of Susumu Kuno

久野暲は、言語学における重要な研究者であり、彼の業績は今後も長く受け継がれていくことでしょう。

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