之字運動

之字運動（のじうんどう）

之字運動とは、艦船が「之」の字を描くようにジグザグに進む航行方法を指します。特に敵の潜水艦の攻撃を回避するために用いられるこの技術は、ジグザグ航行とも称され、短時間で針路を変更する特徴があります。

効果と弊害

戦時中、艦船は敵潜水艦の魚雷攻撃を避けるために之字運動を実施します。潜水艦は艦船に対して魚雷を発射する際、目標の距離や航行速度、針路を基に未来位置を予測します。第二次世界大戦以前の潜水艦は、主に潜望鏡による光学観測や低性能のソナーを使用しており、観測精度を高めるためには継続的な測的が必要でした。このような状況下で之字運動を行うことで、艦船が短時間で針路を変更し、潜水艦による精度の高い測的を妨害できます。特に不規則に之字運動を行うことで、より効果的に敵の攻撃を回避することが可能です。

また、当時の潜水艦は水中での移動速度が低速だったため、艦船に対する攻撃が非常に困難でした。之字運動による針路の変化は、潜水艦が射点に到達するのをさらに難しくします。

しかし、注意すべき点もあります。複数の潜水艦による攻撃、すなわち狼群戦術が行われると、最初の攻撃を回避しても他方向からの攻撃には対応できない場合が多いです。また、大型の低速船は回頭に時間を要するため、之字運動を採用するには限度があります。

さらに、護送船団での之字運動は衝突の危険を伴い、乗員にとっては精神的な負担が大きくなります。直進する場合と比較して航行距離が長くなるため、目的地に到着するまでの時間が増加します。実際に日本海軍の護送船団が之字運動を行った場合、基準速力8ノットから6ノット以下にまで速度が落ちてしまったことがあります。

歴史

之字運動が広く用いられるようになったのは、第一次世界大戦の時期です。この時期、ドイツのUボートによる攻撃に対抗するため、連合国は護送船団方式を導入し、同時に之字運動を適用しました。1917年頃には、商船が編隊航行しながらも簡便な航行パターンで之字運動を行う方法が確立されました。具体的には、例えば10分ごとに15度左右に変針するという方法です。軍艦でも之字運動は実施されましたが、1916年にはイギリスの軽巡洋艦「ファルマス」が攻撃される事例もあり、完全な防御ではありませんでした。

第二次世界大戦において、日本は「船団運動規程」に基づいて商船に之字運動のルールを提供していましたが、米海軍にそのパターンが解読されることで効果が薄れていました。その中でも、独航する船長によっては規則を無視し無秩序な航路を選ぶことがあり、成功した例もあります。このように、之字運動は艦船の防御において重要な役割を果たしてきた一方で、特定の状況や条件下ではその効果が限られていたことも記憶しておくべきです。

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