九〇式飛行艇

九〇式飛行艇

九〇式飛行艇は、旧日本海軍が開発した大型の3発飛行艇で、主に哨戒や偵察任務に使用されました。この機体には、広工廠製の一号と川西航空機製の二号の2つのバリエーションがあります。本稿では、それぞれの特徴と開発経緯を詳しく解説します。

開発の背景

1920年代後半、前作の一五式飛行艇による成功により、自信を深めた日本海軍は、全金属製の大型飛行艇の開発を決定しました。この決定は、陸軍のユンカースK51が導入される時期とも重なり、相互に影響を与えあったと言われています。経済的な側面からも、国内での航空機製造能力の向上が求められたことが背景にあります。1940年代の航空機産業の発展を促すため、川西航空機と広工廠に設計が始まったのです。

九〇式一号飛行艇

開発の経緯

日本海軍は、川西を通じてイギリスのショート社に大型飛行艇を発注する一方で、自国での開発にも注力することを決定しました。1929年に広工廠航空機部に開発指令が下され、プロジェクトは本格的に始動しました。九〇式一号飛行艇は、3発の肩持式単葉全金属製で、エンジンは主翼の上に並列に配置されています。この設計により、1基が停止しても安定した飛行が可能な構造でした。

武装については、7.7mmの連装機関銃や爆弾を装備し、特に尾部銃座は日本の飛行艇で初めての採用でした。さらに、最大搭載可能爆弾量は1トンと当時の海軍機の中では非常に大きいものでした。1930年に試作機が完成し、初飛行に成功した後、実験が行われましたが、安定性やエンジン冷却に関する課題が指摘され、最終的に試作機は1機のみの製造で終了しました。

性能諸元

• - 全長: 22.71 m
• - 全幅: 31.05 m
• - 全高: 7.52 m
• - 翼面積: 137.0 m²
• - 自重: 7,900 kg
• - 全備重量: 11,900 kg
• - 乗員: 9 名
• - エンジン: 三菱製イスパノ・スイザ 水冷V型12気筒 650馬力 ×3基
• - 最高速度: 228 km/h
• - 航続距離: 約2,046 km
• - 武装: 7.7 mm旋回銃 ×4 / 爆弾 最大1トン

九〇式二号飛行艇

開発の経緯

九〇式二号は、川西航空機が製造した3発複葉の飛行艇です。海軍は川西を中心とした航空機メーカーとして成長させるための方策を講じ、1929年に川西にショート社設計の飛行艇を購入するよう指示しました。川西は技術者をイギリスに派遣し、ショート社から設計技術を導入することに成功します。

艇体はアルミニウム不足を考慮し、水線下部分にステンレスを使用しましたが、ジュラルミンとステンレスの腐食現象が発生しました。この問題に対して特殊塗料が使用され、国産化にあたり日本海軍の仕様に合わせるための改良が行われました。実際の試験では高い性能が評価され、1932年には制式採用されました。

性能諸元

• - 全長: 20.50 m
• - 全幅: 31.05 m
• - 全高: 8.70 m
• - 翼面積: 214.0 m²
• - 自重: 10,030 kg
• - 全備重量: 15,000 kg
• - 乗員: 8 名
• - エンジン: ロールス・ロイス バザード 水冷V型12気筒 825馬力 ×3基
• - 最高速度: 225 km/h
• - 航続距離: 約9時間
• - 武装: 7.7 mm旋回銃 ×4 / 爆弾 最大1トン

運用経歴

九〇式飛行艇は、1932年夏に館山からサイパンまでの長距離飛行に成功し、その性能は他の飛行艇に引けを取らないものでした。一方で、新型機ならではの課題もありました。例えば、主操縦席が左にあるため操縦感覚が従来機と異なり、また三発エンジンの同調が難しいなどの問題が指摘されています。さらに、事故や台風による損失で徐々に運用機数が減少し、最終的には1938年に残存していた唯一の機体も除籍されました。

この飛行艇の成功は川西に自信を与え、後の九七式飛行艇開発への布石となる重要な出来事でした。

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