九一式広軌牽引車

九一式広軌牽引車について

九一式広軌牽引車（きゅういちしきこうきけんいんしゃ）は、1931年に大日本帝国陸軍により採用された装輪装甲車です。この車両は、通常の道路を走行する際にはタイヤを使用し、必要に応じて鉄輪に交換することで鉄道上を走行することができるという独特の性能を持っています。このような設計により、様々な戦術的シナリオに対応することが可能でした。

開発の背景

大日本帝国陸軍において鉄道連隊は、当初はシンプルな装甲を施された貨車を保有していましたが、日本が中国大陸に進出する中で、鉄道の防衛が重要性を増しました。当時、装甲列車を用いていましたが、その機動力の限界から新たな自走式の装甲車両が求められるようになりました。これに応じて、日本陸軍はガソリンエンジンを搭載し、迅速な操作が可能な装甲車の開発に着手しました。

開発の初期段階では、ウーズレー装甲自動車の製作経験を持つ石川島自動車製作所が担当し、1929年には最初の試作車が完成しました。この試作車は「スミダRSW型」と呼ばれ、満州地域での実戦配備が行われました。さらに改良を加えた九〇式広軌牽引車が試作された後、細かな変更を経て九一式広軌牽引車が制式化されました。

性能と機能

九一式広軌牽引車は、路上走行のためにゴム製ソリッドタイヤと、軌道上での走行に適した鉄輪を使用しており、前後に大型ジャッキを装備しているため、タイヤと鉄輪の交換が容易でした。幅広の車体は、広軌・標準軌の両方の線路に適応しており、トラック程度の出力でも貨車を牽引する能力を持ち、鉄道資材の輸送に貢献しました。

ただし、変速機能は前進5段、後進1段のため、2輌を背中合わせに連結して運用するケースが多く見られました。この点は、後に開発された九四式や一〇〇式との比較において改善されることとなります。武装については、歩兵科との調整のため、あまり装備されておらず、戦闘時には着脱式の機関銃を用いることが一般的でした。そのため、装甲は小銃弾に対して最低限の防護を提供するものでした。

生産と運用

九一式広軌牽引車の生産は、当初の計画から変更され、瓦斯電（現在のいすゞ自動車の前身）が担当しました。この車両は、南満州鉄道の警備を行う独立守備隊や各地の鉄道で作戦を行う鉄道連隊に配備されました。実戦では、「装甲軌道車」や「装甲単車」などの名称で使われ、鉄道の敷設や修復、警備においても重要な役割を果たしました。

派生型

九一式広軌牽引車を基にした派生型も存在します。軌道走行機能を省いた純粋な装輪装甲車が日本陸軍向けに開発され、小型の6輪装甲車として製造されました。また、日本海軍向けにも同様の派生型が生産され、陸軍向けモデルに比べて設計変更は比較的小規模でした。これらは、鉄道に関連する装備を排除した形で運用されました。特に陸軍向けの「愛国号」や海軍向けの「報国号」として知られる車両は、戦闘任務においても活躍しました。

参考文献

• - 陸軍技術本部第一部研究方針追加改定並九〇式野砲外七点制定制定の件
• - 高橋昇 「装甲自動車物語 2」『PANZER』86号

このように、九一式広軌牽引車はその特殊な性能と多用途性から、運用していた当時の日本陸軍において重要な車両の一つであったと言えるでしょう。

もう一度検索