広軌

広軌とは

広軌（こうき、broad gauge）とは、鉄道の線路におけるレール間の幅、すなわち軌間が、標準軌とされる1435mm（4フィート8½インチ）よりも広いものを指します。

広軌の特徴

軌間が広くなるほど、列車の安定性が向上し、横風に対する安全性も増します。これは、車体の重心が低くなり、転倒しにくくなるためです。しかし、一方で、曲線区間での左右車輪の回転数差が大きくなるため、急カーブを通過する際には、より大きな曲線半径が必要になります。この問題を克服するために、左右の車輪が独立して回転できる機構を備えた車両（例：タルゴ）も開発されています。

速度と軌間の関係

蒸気機関車の場合、動輪の直径を大きくできるため、広軌は速度向上に有利でした。しかし、電気機関車などの近代的な動力車では、軌間の違いが速度に与える影響は小さくなります。例えば、スペインでは、広軌の在来線で最高速度220km/hを達成していますが、高速新線AVEは、国際直通運転を考慮し、標準軌で建設されています。

世界の広軌鉄道

広軌は世界各国で採用されており、その軌間は様々です。以下に主な例を挙げます。

1524mm（現在1520mm）

旧ソビエト連邦諸国（ロシア、ウクライナ、ベラルーシなど）で広く採用されています。この軌間は、ロシア帝国が外敵の侵入を困難にするために採用したという説があります。ただし、近年ではウクライナが標準軌への改軌を表明するなど、変化も見られます。

ロシア連邦
ウクライナ
ベラルーシ
モルドバ
エストニア
ラトビア
リトアニア
ジョージア
アゼルバイジャン
アルメニア
カザフスタン
ウズベキスタン
トルクメニスタン
キルギス
タジキスタン

また、旧ソ連圏ではないものの、モンゴルやフィンランドもこの軌間を採用しています。これは、ソ連との関係や、東西貿易における鉄道の利用が影響しています。

モンゴル国
フィンランド

1581mm - 1676mm

アメリカのペンシルベニア州（フィラデルフィア、ピッツバーグ）では、路面電車や地下鉄に異なる軌間が採用されています。これは、19世紀中頃に建設された馬車鉄道の軌間がそのまま使われているためです。

1581mm: 米国（ペンシルベニア州フィラデルフィア市の地下鉄・路面電車路線SEPTA）
1588mm: 米国（ペンシルベニア州ピッツバーグ市の路面電車）

アイルランド、イギリス、オーストラリア、ブラジルなどでは、1600mmの軌間が採用されています。ブラジルでは、都市鉄道やかつての鉄道路線で広く使用され、一部では1000mm軌間との三線[[軌条]]も存在します。

1600mm: アイルランド、イギリス、北アイルランド、オーストラリア、ブラジル

ポルトガルとスペインでは、1665mmと1668mmの軌間がそれぞれ使用されています。スペインでは、高速鉄道AVEを除き、広軌が採用されています。

1665mm: ポルトガル
1668mm: スペイン

インド、パキスタン、スリランカ、アルゼンチン、チリなどでは、1676mmの広軌が採用されています。インドでは、技術者と政府の間で軌間に関する意見対立があり、妥協案としてこの軌間が採用されたという経緯があります。

* 1676mm: インド、パキスタン、スリランカ、アルゼンチン、チリ、米国（カリフォルニア州サンフランシスコ市のBART）

広軌の歴史

19世紀のイギリスでは、グレート・ウェスタン[[鉄道]]が2140mm（7フィート¼インチ）の広軌を導入しました。イザムバード・キングダム・ブルネルは、この広軌によって車両の安定性と速度を向上させようとしましたが、初期の機関車の設計問題や、懸架装置の進歩により、標準軌との速度差は縮まりました。また、1600mmや1676mmの軌間では、蒸気機関のシリンダーを大きくして出力を増やすことができましたが、標準軌でもシリンダーを外側に配置することでこの問題を解決できました。

日本における広軌

日本では、地方[[鉄道法]]によって、私鉄も旧国鉄線の1067mmの狭軌を超える軌間の敷設が制限されていたため、1067mmを超える軌間は全て広軌とされていました。特に、1435mmの標準軌も広軌として扱われることがありましたが、国鉄分割民営化後は、国際的な広軌との混同を避けるため、1435mmを標準軌と呼ぶのが一般的になりました。

現在、日本国内には、国土交通省が管轄する普通鉄道では、国際的な広軌（1435mmを超える軌間）の営業用路線は存在しません。しかし、工場構内鉄道では、製鉄所などで広軌が採用されている例があります。これは、軟弱地盤での重量物輸送や、閉鎖された輸送ルートのため、軌間を広げることによるメリットが大きいためです。

特殊鉄道や非指定鉄道では、広軌を導入しているケースが見られます。ゴムタイヤ式地下鉄では、広島高速交通や札幌市営地下鉄が広軌を採用しており、宮ヶ瀬ダムインクラインや野辺山宇宙電波観測所のパラボラアンテナ運搬軌道でも広軌が用いられています。

まとめ

広軌は、その安定性や輸送能力の高さから、世界各地で採用されてきました。しかし、標準軌との相互乗り入れや、曲線区間での制約など、課題も抱えています。各国の歴史的背景や技術的な発展が、広軌の採用に影響を与えていることは興味深い点です。

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