九三式水中探信儀

九三式探信儀：日本海軍の初期ソナー技術

九三式探信儀、あるいは九三式水中探信儀は、大日本帝国海軍が開発・運用した艦艇搭載用の水中探信儀（アクティブ・ソナー）です。本稿では、その開発経緯、装置概要、探知性能について詳述します。

開発の歩み：技術導入から国産化へ

第一次世界大戦中、日本海軍はイギリス海軍の曳航式水中聴音機を初めて目撃しました。戦後、イギリスから水中聴音機の導入を進め、更なる技術向上を目指してフランスの技術にも注目します。パリ駐在の海軍艦政本部監督官、名和武造兵大尉がランジュバン式水晶送波器に着目し、その試験導入を提案。測深儀としての導入が決定され、フランスSCAM社製の装置を購入、横須賀にて駆潜艇を用いた研究・実験が行われました。これらの経験と研究成果を基に、1933年（昭和8年）、九三式探信儀が制式採用されました。国産化に向けた努力と、海外技術の積極的な導入が、開発を成功に導いたと言えるでしょう。

装置概要：水晶式送受波器と多様な改良

九三式探信儀は水晶の圧電気作用を利用した超音波ソナーです。送受波器から超音波を発射し、その反響音から目標の存在、性質、方向、距離を検知します。初期型は艦艇の電源種類（直流、交流）や搭載艦種（小艦艇、潜水艦）に応じて複数型が存在しましたが、後に磁歪式送受波器を採用した改良型も開発されました。

送受波器は、17.5kHzの共振周波数を持つ「九三式送波器」と呼ばれる水晶式送受波器が初期に採用されました。これは140個の水晶片を振動板で挟んだ構造でしたが、衝撃に弱く、水上艦艇では爆雷攻撃前に艦内に収納する必要がありました。ブラジルからの水晶輸入に依存していたため、戦争後期には供給が途絶え、磁歪式への転換が急務となりました。

磁歪式送受波器は、水晶式に比べて衝撃や温度変化に強く、音響出力も大幅に向上しました。また、初期型には整流覆（ソナードーム）が無く、自艦ノイズの影響が大きかったため、開戦後に鹵獲したASDICを参考に鉄製整流覆が装備され、探知性能が向上しました。

操縦装置は、油圧整動機による遠隔操作式で、送受波器の昇降・旋回を制御しました。大型で入渠作業が必要な点が欠点でした。

指揮装置は、目標の方向・距離を視覚的に指示するもので、方向指示装置と距離指示装置から構成されています。初期型は聴覚に頼る部分が大きかったため、後にASDICを参考に国産化した記録装置が追加され、目標の探知距離を自動記録できるようになりました。この記録装置は、対潜攻撃の状況判断にも役立てられました。

探知性能と運用：限界と工夫

九三式探信儀の理論上の最大探知距離は5900m以上とされましたが、実際の探知距離は海況や自艦の速力、搭載艦種など様々な要因に影響を受けました。500m以内では潜水艦の推進器音も聴取できたため、聴音機との併用が推奨されていました。近距離での探知は聴音に頼る部分が大きかったため、至近距離での探知精度は必ずしも高くなかったと考えられます。

参考文献

名和武ほか 編『海軍電気技術史 第6部』技術研究本部、1969年10月
海軍水雷史刊行会 編『海軍水雷史』海軍水雷史刊行会、1979年3月
Stille, Mark (2017-07-18). Imperial Japanese Navy Antisubmarine Escorts, 1941-45. Osprey Pub Co.
『旧海軍防備関係兵器資料 対潜兵器要覧』横須賀地方総監部・技術部実用試験部。防衛研究所戦史研究センター
『無線並音響兵器概要一覧 昭和18. 9』海軍艦政本部、1943年9月。防衛研究所戦史研究センター
(PDF) Reports of the U.S. Naval Technical Mission to Japan, 1945-1946(1974). Operational Archives.U.S. Naval History Division.
『昭和19. 10 対潜兵器 懇談会摘録』1944年10月。防衛研究所戦史研究センター
(PDF) ANTI-SUBMARINE REPORT AUGUST, 1944. SOUTH-WEST PACIFIC.
『世界の艦船12月増刊号　日本海軍護衛艦艇史』海人社、2017年11月16日
昭和17～18年『航海兵器綴及性能表』、防衛研究所戦史研究センター

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