九州産業鉄道オハフ1形客車

九州産業鉄道オハフ1形客車

九州産業鉄道オハフ1形客車は、1932年（昭和7年）に田中車輛で製造された、九州産業鉄道が所有した客車です。当時、鉄道省が量産を開始したばかりの最新鋭客車、スハフ34400形（後のスハフ32形）をベースに、全長を約3m短縮した17m級の客車として誕生しました。

概要

オハフ1形は、車体長こそ短いものの、それ以外の設計や部品は鉄道省の規格に準拠して製造されました。このため、産業セメント鉄道の国有化後も、他の制式鋼製客車と同様に扱われ、区別されることなく運用されました。国内の私鉄において、鉄道省の制式客車の設計をここまで徹底的に流用した例は、他に類を見ません。

車体

製造を担当した田中車輌は、鉄道省向けの客車製造も手がけていたため、車体設計や部品は省の規格品が多用されました。側窓4枚分の長さを短縮した以外は、スハフ34400形とほぼ同じ設計で、定員は64名、自重は29.72t。座席もスハフ34400形と同仕様のものが搭載されました。

主要機器

台車はTR23相当品、ブレーキ装置は鉄道省標準のA動作弁によるAVブレーキ装置を搭載しています。ただし、便所の水タンクは、床下設置でブレーキ管の空気圧で揚水する方式ではなく、オハ31系と同様の重力落下式が採用されています。この点が、車体長以外でスハフ34400形と異なる点の一つです。

運用

1943年（昭和18年）の戦時買収により、産業セメント鉄道は国有化され、オハフ1形も鉄道省に編入されました。その際、通常であれば雑形客車として扱われるところでしたが、車体長以外はスハ32系に準じており、部品も共通であったため、制式客車と同等に扱われることになり、オハフ36形（オハフ36 1）という形式称号が与えられました。

買収後は、一時的に鹿児島地区で使用されたものの、主に筑豊地区の田川線を中心に運用され、1960年代半ば過ぎまで活躍しました。しかし、1形式1両のみの存在であり、主要部品がスハ32系と共通であったため、検査上の不都合はなかったものの、国鉄客車としての形式図は作成されず、台枠や台車も正式な型番を与えられないまま、1967年（昭和42年）12月20日に廃車、解体されました。

オハフ1形は、短命ながらも、鉄道省の技術を地方私鉄に伝えるという、貴重な役割を果たした客車と言えるでしょう。

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