九州電気軌道不正手形事件

九州電気軌道不正手形事件

九州電気軌道不正手形事件は、現・西日本鉄道の前身、九州電気軌道の当時の社長であった松本枩蔵によって引き起こされた重大な事件です。約10年間にわたり、松本は社名の手形を不正に発行し、総額約2,250万円を私的に流用していました。この不正行為は、1930年に発覚し、翌年には公式に公表されました。

九州電気軌道と松本枩蔵の背景

九州電気軌道は1908年に設立され、北九州市を中心に電気軌道や電気供給事業を展開していました。設立当初は神戸財界の影響が強かったこの企業は、特に松方幸次郎という政治家が中心的な役割を果たしていました。松本枩蔵は、松方の義理の兄であり、経歴としては大阪の商人の養嗣子でありつつも、九州電気軌道において様々な経営職を歴任していました。

1930年、松本は社長に就任したばかりであり、旧経営陣からの転換があった後だったため、彼の行動は企業内部の不安を引き起こす要因ともなりました。また、彼の不正発行が始まったのは、この企業の資金繰りや自己の浪費のためでした。

事件の発覚

事件は、九州電気軌道の競合である九州水力電気が股式買収を目的として松本枩蔵との交渉を行った際、発覚しました。1930年10月、取締役の麻生太吉が福岡県知事からの呼び出しを受け、そこで松本からの不正手形の存在を知らされました。これにより、すぐに事態を監督官庁や社内に報告し、会議が開かれました。

三名の取締役が去ることが決定された後、調査が行われ、経営陣全体が松本の不正行為に関与していたことが明らかになりました。手形の発行は過去10年間にわたり続けられており、様々な社印を不正に使用して発行されたものでした。支払期日が差し迫る中、会社は手形の償還をどう行うかが大きな問題となりました。

不正手形処理の方針

九州電気軌道は問題解決のため、日本興業銀行からの融資を受け、松本の私財を利用して手形の回収を進めることになりました。これにより、松本の個人債務の返済に必要な資金を調達しつつ、手形の処理に充てる方針が立てられました。具体的には、九州水力電気が銀行から融資を受け、債務を償還しました。

このような急速かつ秘密裏での業務進行が進む中、環境整備に苦慮しつつ、最終的には8か月後の1931年6月2日に手形の回収が完了しました。

債務処理と再建

九州電気軌道の新しい経営陣は、旧経営陣による不正発行の他にも、長年業績を虚偽の数字で水増しするなどの財務操作を行っていたことを把握しました。この結果、経営状態はひどく悪化し、高配当は実態を伴わないものであることが露見しました。復興に向けた新たな施策が打ち出され、無配当や人員削減が実施されました。

1935年には再建が成され、配当が復活するに至りました。この過程で、松本は1936年に亡くなり、彼の遺産はほとんど残されていないことが伝えられています。

九州電気軌道不正手形事件は、企業財務の信頼性の重要性をも痛感させるものとなりました。企業の経営陣には、高度な倫理観と責任が求められることを示しています。

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