松本枩蔵

松本枩蔵（まつもとまつぞう）の人生と不正手形事件

松本枩蔵（1870年 - 1936年）は、大正から昭和初期にかけて日本で名を馳せた実業家であり、九州電気軌道の第2代社長を務めた。彼は大きな業績を残した一方で、数々の波乱も経験し、その運命は不正手形事件によって決定付けられた。以下では、松本の生涯と事件の詳細を解説する。

前半生と経歴の出発点

松本は明治3年、井上家に生まれた。兄井上保次郎も実業家として知られており、松本家は両替商として成功を収めていた。1889年、松本は養子入りし、実業家松本重太郎の子として新たな人生をスタートさせる。養父の重太郎は商業の成功から、松本に海外留学を条件として養子入りをさせた。

アメリカ留学を経て、松本は1899年に妻と結婚し、長男を迎えた。その後、重太郎が経営する日本紡織の取締役となり、経営責任を負うことになった。しかし、経営不振により重太郎の銀行事業が破綻し、松本も経営危機に直面する。以降の彼は、留学時の知人である武藤山治に仕官することとなる。

九州電気軌道での成功

1908年、松方幸次郎の支援を受けて九州電気軌道（九軌）が設立され、松本は同社の支配人に就任することが確認されている。会社の発展と共に松本の生活も華やかになり、大規模な茶会や美術品の展覧会を開催するなど、社交的な一面も持っていた。

1930年、松本は第2代社長に昇進し、九州電気軌道は鉄道事業のほか電気供給事業も扱う企業として成長を続けていた。しかし、九州有数の電力会社と競争を繰り広げる中で、松本の経営に暗雲が立ち込めることになる。

不正手形事件の真相

1935年、九州電気軌道の新たな経営陣が松本の旧経営体制を調査する中で、不正手形の存在が明らかになった。これは松本が過去10年間で不正に振り出した2,250万円にのぼる社名手形のことを指す。調査結果を受け、松本はその後知事に自ら告白することとなった。

事件発覚後、会社は莫大な債務と不正手形の償還に苦しむことになり、松本の私財も巻き込まれる形で、全てが会社に引き渡される事態となった。彼が不正手形を発行した理由としては、大規模な社交活動や義兄への金銭的支援、社長として会社の株価維持を図るためだったとされている。

事件の結末とその後

松本は事件の影響で株主から告訴されることとなり、健康を害して入院。彼は病状が考慮され、起訴猶予処分を受けることになった。その後、九州電気軌道は松本から徴収した書画や骨董品を売却し、経営再建の資金に充てることとなった。

最終的に松本は1936年に死去。長男によると、彼の遺産の額は12円50銭のみであったという。不正手形事件は松本の名声に大きな傷を残したが、同時に彼の生涯を通じての業績と影響力を否定するものではない。彼の人生は成功と失敗、名声と汚名が交錯した複雑なものであった。

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