九平とねえちゃん

『九平とねえちゃん』

赤塚不二夫が手掛けた漫画『九平とねえちゃん』は、1966年4月号の『りぼん』において発表され、当時の少女[[漫画]]に新たな視点を提供した作品です。この漫画は、少女たちの淡い恋心と、不幸な戦争という重いテーマを組み合わせて描かれており、特に「少女の甘酸っぱくほろ苦い思い出」と「原爆の悲劇」という二つの側面が特徴的です。

制作背景

本作は、短編作品である『点平とねえちゃん』や『しろいかっぽうぎ』を元に、再構成されたものです。赤塚自身は、後にこの作品に対して「消化不良だった」と振り返るなど、当初の意図には不満を持っていたようです。1970年代の少女[[漫画]]誌では、戦争の悲惨さを描く作品が多く見られ、特に恋人や家族を失った女性たちの心情が描かれていました。『九平とねえちゃん』は、そうした流れの中で、原爆の恐怖を存分に伝える作品と評価されてきました。

本作は、1969年に刊行された『赤塚不二夫全集13』に収録された後、長い間手に入らない状況が続きましたが、2005年に小学館からオンデマンド版が登場し、多くの読者が再びこの作品に触れられるようになりました。また、2013年には、戦争漫画をテーマにしたアンソロジー『漫画家たちの戦争』の中に収録され、時代を超えてそのメッセージが受け継がれています。

あらすじ

物語の舞台は、経済が成長を遂げる東京の下町です。主人公のユキ子とその弟九平は、ある日、鉄橋から落ちそうになった際に、写真屋を営む若者・裕に助けられます。この出来事をきっかけに、ユキ子は裕に恋心を抱くようになります。ユキ子は母と弟との小さな家族を大切にしながらも、裕との関係に胸を躍らせていきますが、裕の過去には原爆症の影が忍び寄っていました。

登場人物

• - ユキ子: 本作の主人公で、東京の下町に居住する女学生。明るく優しい性格で、家族との絆を大切にしています。
• - 九平: ユキ子の弟で、無邪気でいたずら好きな性格を持つ少年です。
• - 裕: 小さな写真屋の青年。ユキ子と九平を助けたことから物語が進展しますが、幼い頃からの原爆症が彼の運命を暗くしています。
• - ヤエ子: 裕の姪で、母を原爆症で失った過去を抱えています。裕に引き取られた後、彼の死後は親戚に引き取られます。
• - ポロ: ヤエ子が飼っていた子犬で、彼女が引き取られた後は九平の愛犬となります。
• - ユキ子と九平の母: 女手一つで子供たちを育てる力強い女性。夫を事故で亡くし、家計を支えるため働き続けています。

作風とテーマ

現在の目で見ると、本作は「下町の子供たちの素朴な生活」と「戦争の悲劇」を独自のバランスで描いているといえます。その中で赤塚は、ただ戦争を批判するだけではなく、日常の中に潜む平和の尊さを丹念に表現しました。特に彼は、戦争を単なる善悪の問題として捉えることなく、より深い視点で捉えています。

本作は、単に「核兵器反対」というメッセージを前面に押し出すのではなく、日常生活を脅かす戦争の恐怖が静かに心に響くように描写されています。戦争の影を背負いつつも、登場人物たちが希望を持ち続ける様子には、読む者の心を打つものがあります。

書誌情報

• - 赤塚不二夫『赤塚不二夫全集13 九平とねえちゃん』曙出版〈Akebono-Comics〉（1969年10月）
• - 赤塚不二夫『九平とねえちゃん オンデマンド版』小学館〈赤塚不二夫漫画大全集86〉（2005年9月初版発行）
• - 赤塚不二夫『九平とねえちゃん』フジオ・プロダクション（2012年、電子書籍）

このように『九平とねえちゃん』は、戦争という悲劇の中で描かれる若者たちの生活と葛藤、そして希望を見つける旅路を通して、多くの読者に強いメッセージを届けています。

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