九章律

九章律についての詳細な考察

概要

九章律（きゅうしょうりつ）は、前漢の時代に蕭何が中心となって整備したとされる一連の法律体系です。この法典は、全9篇から成り立ち、いわゆる律九章（りつきゅうしょう）や律経とも呼ばれています。ただし、南北朝時代における歴史的混乱によって、その内容のほとんどは失われ、現在では一部の文献にしか触れることができません。

歴史的背景

九章律の起源に関する通説によれば、劉邦が関中に入った際に、秦の厳格な法令を改めるために人を殺した者には死刑を、人を傷つけた者と物を盗んだ者には罰を与える三章の法律を制定しました。しかし、これだけでは社会の混乱を収拾できなかったため、蕭何は秦の法の中から選りすぐりのものを基に九章律を完成させたと言われています。

さらに唐代の『晋書』によると、蕭何は魏の李悝が定めた『法経』から行政に関する3篇の規定を加え、原則として罪に問う内容を整えたとされています。ここでは、戸籍や租税に関する規定、建築や土木に関する規定、そしてその管理に関する規定が含まれているとされ、それにより9篇に至った経緯が述べられています。

九章律の重要性

九章律は、前漢から後漢にかけて基本的な法典と見なされました。儒教の発展に伴い、儒家は司法にも深く関与するようになり、九章律は儒家の経典にも相当すると考えられ、さまざまな注釈が付されました。

通説への疑問

しかし、蕭何が九章律を制定したという説には疑義が存在します。『漢書』以前の歴史資料には蕭何がこの法典を作成したとの記録は見当たらず、また、王充は『論衡』において蕭何が律経を編纂したとの見解を明確に否定しています。彼は九章に肉刑に関する記述が存在しないことを指摘し、その成立時期における肉刑の状況を考慮することで、蕭何の関与に疑問を投げかけています。

現代的見解

近年の研究では、九章律の存在自体に対して懐疑的な見解が示されています。例えば、廣瀬薫雄は漢代に存在した法典は、後世のような法典ではなく、個々の行政令を抜粋して整理したものだと主張しています。そして、九章律も初めは私的な法令集から始まり、次第に官の正式な文書として採用されるようになったと考えられています。

結論

九章律は中国の法制度の発展において重要な位置を占め、多くの研究の対象となっていますが、その実態は複雑であり、歴史的な文脈や当時の社会状況を深く理解することでやっとその全貌が見えてくると言えます。法典としての役割と影響力はあったものの、その成立過程と内容に関する議論は今なお続いています。

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