晋書

『晋書』とは

『晋書』は、中国の晋王朝（西晋・東晋）の歴史を記した歴史書で、二十四史の一つに数えられます。唐の太宗の命により、房玄齢や李延寿らによって編纂され、648年に完成しました。紀伝体で構成され、帝紀、載記、列伝、志の各部分から成り立っています。

成立の背景と構成

唐の太宗は、自身の正当性を示すために史書編纂を国家事業としました。その中で、『晋書』は『北斉書』、『梁書』、『陳書』、『隋書』、『周書』と共に編纂されました。太宗自身も王羲之を深く敬愛し、『晋書』の「王羲之伝」は自ら筆を執ったと伝えられています。この編纂事業により、後の王朝は滅亡した王朝の歴史書を編纂することが義務となりました。

『晋書』成立以前にも、多くの史家によって晋の歴史書が作られており、それらは「十八家晋史」と呼ばれていました。『晋書』は、これらの先行史書や、『十六国春秋』などの五胡十六国に関する書物を参考に編纂されています。

本紀には、晋の実質的な始祖である司馬懿から東晋最後の皇帝、恭帝司馬徳文までの記述がありますが、載記には東晋滅亡後に死去した赫連勃勃なども含まれています。西晋の時代には、史書編纂の始期を巡って議論があり、最終的に武帝が即位した泰始年間からとされました。

正史『晋書』は、司馬懿、司馬師、司馬昭などの例外を除き、武帝即位以前に死去した人物の伝記は基本的に立てられていません。

『晋書』の評価

『晋書』は、晋だけでなく後漢や三国時代の情報も含む「志」の部分が、特に貴重な資料とされています。また、五胡十六国の歴史を「載記」としてまとめた点も重要です。

しかし、『晋書』の正確性については批判的な意見が多く、史料として鵜呑みにできない部分も多くあります。

『史通』では、怪しげな話を多く採用していると指摘されており、『旧唐書』では、編纂に携わった史官たちが真実を追求せず、美文を書くことにばかり気を配っていたと酷評されています。これらの批判は、後世の歴史家にも受け継がれており、清朝の考証学者である趙翼なども『晋書』の信憑性を疑問視しています。

現代の研究者も、『晋書』には多くの誤りがあることを指摘しており、敦煌文書や『世説新語』などによる校正が必要であるとしています。また、占田制や課田制といった重要な歴史問題についても、誤りがあるため、安易に信用すべきではないと警告しています。

既存の史書と比較すると、複数の編纂者が関わったことで内容に矛盾が見られる箇所もあり、内藤湖南によっても指摘されています。

しかし、『冊府元亀』では、『晋書』の資料収集能力は高く評価されています。ただし、このような肯定的な評価は非常に少ないのが現状です。

このように、『晋書』は史書としての評価は必ずしも高くありませんが、『三国志』に欠けている地理志を補完する重要な資料として利用されています。また、『三国志』に司馬懿の伝記がないため、司馬懿の伝記である「宣帝紀」が参考にされることも多いですが、内容には信憑性に欠ける記述も含まれています。

内容構成

紀

晋の皇帝たちの事績を記した部分です。司馬懿から恭帝までの歴史が記述されています。

志

制度や文化、地理などについて記した部分です。後漢や三国時代の情報も含まれており、当時の社会や文化を理解する上で重要な資料となっています。

列伝

様々な人物の伝記が記述された部分です。政治家、軍人、学者、文人など、幅広い分野の人々の生き様が描かれています。

載記

五胡十六国時代の君主や、その勢力に関する記録です。これらの記録を通じて、当時の政治状況や社会情勢を知ることができます。

まとめ

『晋書』は、晋王朝の歴史を知る上で欠かせない史書ですが、内容には注意を要します。複数の視点から情報を検証し、他の史料との比較検討を通じて、より正確な歴史理解を深めることが重要です。

参考文献

『晋書』中華書局、1974年。
越智重明『中国古典新書 晋書』明徳出版社、1970年。
竹内康浩『「正史」はいかに書かれてきたか 中国の歴史書を読み解く』大修館書店、2002年。
内藤湖南『支那史学史1』平凡社〈東洋文庫〉、1992年。

関連項目

倭・倭人関連の中国文献

外部リンク

中央研究院 漢籍電子文獻（台湾） - 「新校本晋書」など史書はじめ各種漢籍を全文検索できる
『晋書』中華書局版 - 概要
解体晋書 - 『晋書』の全訳を目指すサイト

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