王充

王充（おう じゅう）

王充（おう じゅう、27年 - 97年頃）は、後漢時代の文人であり思想家です。字（あざな）は仲任（ちゅうにん）。会稽郡上虞県（現在の浙江省上虞市付近）の出身です。彼は、当時の社会で信じられていた讖緯説（予言思想）や旧伝といった非合理的な考え方を批判し、合理的な思考を追求したことで知られています。

生涯

王充は幼少の頃から、他の子供たちが好むような遊びには興味を示さず、勉学に励みました。6歳で学習を始め、「礼」と「敬」を身につけ、両親や地域の人々から高く評価されました。8歳で書館（学校）に通い、そこでも学業で優れた成績を収めました。青年期には、都の洛陽に上り、太学で班彪（はんぴょう。『漢書』の著者である班固の父）に師事し、学問を修めました。

洛陽での生活は貧しく、書物を購入する余裕がありませんでしたが、市場の書店で立ち読みをして内容を暗記し、様々な学問に通じるようになったと言われています。王充は、既存の学問の形式にとらわれず、自由な学問研究を志しました。

学問を修めた後、郷里に戻り地方行政の下級官吏となりましたが、上司との意見が合わず、出世することはありませんでした。30歳代で官職を辞し、郷里の子弟に学問を教えながら、書物や俗説の真偽を見極めようと著述に打ち込むようになりました。

86年には揚州刺史の董勤に召されて60歳で治中従事史となりましたが、88年には辞任して隠棲しました。隠棲後も、友人の謝夷吾が王充の登用を薦めましたが、病を得ていたため出仕することはできませんでした。彼は、晩年を著述に捧げ、『論衡』の完成に情熱を注ぎました。

王充は、永元年間（89年 - 105年）に病のため生涯を終えたとされています。

思想と著作

王充の代表的な著作は『論衡』です。この書物の中で、彼は当時の社会で信じられていた様々な迷信や非合理的な考え方を批判し、合理的な思考の重要性を説きました。彼は、儒教に対しても厳しい批判を行い、そのことから、北宋以降は異端視されることもありました。しかし、20世紀後半の中華人民共和国では、孔子批判の先駆者として再評価されるなど、時代によって評価が大きく変わっています。

『論衡』は、王充の合理的な思考や批判精神が色濃く反映された著作であり、彼の思想を知る上で重要な資料となっています。

名言

「賢不賢は、才なればなり。遇不遇は、時なればなり。」（『論衡』逢遇篇）
訳：賢いか賢くないかは才能による。チャンスに恵まれるかどうかは時の運による。
「凡人命を受くるは、父母気を施すの時に在り、已に吉凶を得。」（『論衡』命義篇）
訳：人が運命を授かるのは、父母が気を与える時であり、その時にすでに吉凶が決まっている。
「文人の休は、国の府なり。」（『論衡』佚文篇）
訳：文人が立派であることは、国家の誇りである。
「人材に高下有り、物を知るは学に由る。之を学べば乃ち知り、問わざれば識らず。」（『論衡』実知篇）
訳：人の才能には差があるが、知識を得るのは学問による。学べば知り、学ばなければ理解できない。
「論衡なる者は、論の平なり。」（『論衡』自紀篇）
訳：論衡とは、論評の天秤という意味である。
「夫れ天道は、自ら然るなり、為無し。」（『論衡』譴告篇）
訳：そもそも天の在り方は、自然であり、人為的なものではない。

思想の特徴

王充の思想の最大の特徴は、この世界のあらゆる現象を「気」という概念で捉えたことです。彼は、人もまた天から受けた気によって形作られると考えました。また、王充は、人が運命から逃れることはできないと考えました。しかし、彼は運命論者ではなく、運命を受け入れつつも、人為的な努力によって運命を切り開くことができると考えていました。

王充の思想は、当時の社会に大きな影響を与え、後世の思想家たちにも様々な影響を与えました。

関連項目

桓譚（かんたん）
荀子（じゅんし）
* 老荘思想（ろうそうしそう）

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