九鬼隆備

九鬼隆備：動乱の時代に生きた綾部藩主

九鬼隆備は、江戸時代後期、丹波国綾部藩を治めた最後の藩主として歴史に名を残す人物です。従五位上、大隅守に叙せられた彼は、綾部藩10代当主として、激動の時代を生き抜き、藩政改革や明治維新への対応など、数々の重要な役割を担いました。

隆備は、9代藩主九鬼隆都の長男として誕生しました。嘉永6年（1853年）、まだ幼少ながら13代将軍徳川家定に拝謁するなど、早くから幕府との繋がりを持っていました。文久元年（1861年）、父隆都の隠居に伴い家督を相続すると、まもなく従五位下・大隅守に叙任されます。

隆備の藩主としての活動は、まさに時代の転換期と重なります。文久3年（1863年）、幕府から京都の警備を命じられ、翌元治元年（1864年）には上洛して孝明天皇に拝謁。歴史的事件として知られる禁門の変では、御所警備という重要な任務に当たりました。その後、帰藩した隆備は藩政改革に尽力します。藩校「進徳館」の改名や藩内に6箇所の郷学校を設立するなど、庶民教育にも熱心に取り組みました。これは、後の明治政府による近代化教育の先駆けとなる重要な施策でした。

慶応3年（1867年）、幕府が大政奉還を実行すると、隆備は機敏に新政府側に帰順。明治2年（1869年）の版籍奉還で知藩事となり、明治4年（1871年）の廃藩置県によって免官となります。同年、実弟の九鬼寧隆に家督を譲って隠居しますが、寧隆の死去に伴い明治9年（1876年）に再び家督を相続しました。

隆備の功績は、政治面だけにとどまりません。明治17年（1884年）、子爵に叙爵され、その高い評価が示されています。彼の家系は、兄弟にも子爵の位を得た者がおり、隆備自身も、長男・隆治が家督を継ぎ、子爵位を継承し、皇道宣揚会や帝国美術保存会の会頭を務めるなど、明治以降も社会的に重要な役割を果たしました。

九鬼隆備は、64歳でこの世を去りましたが、その生涯は、江戸幕府の終焉と明治維新という激動の時代を生き抜き、藩主として、そして子爵として、日本の近代化に貢献した人物であったと言えるでしょう。彼の行った藩政改革や教育への取り組みは、現代においてもその意義を再認識させるものです。彼は、単なる大名ではなく、時代の変化に対応し、新たな道を切り開こうとした先見の明を持つ指導者であったと言えます。 隆備の行動や政策は、日本の近代化への移行期における地方藩の対応を示す貴重な事例として、歴史研究においても重要な位置を占めています。

もう一度検索