乳井義博

乳井義博の剣道人生

乳井義博（にゅうい よしひろ）は、1906年に秋田県鹿角郡花輪村で生まれ、1975年にその生涯を閉じた日本の剣道家です。彼は高野佐三郎の高弟として知られ、剣道の十段を取得しました。乳井は剣道だけでなく、その卓越した指導力でも名を馳せ、特に東北地方で高く評価されていました。

経歴の始まり

乳井は14歳の時に上京し、高野佐三郎が主宰する修道学院に入門しました。彼は中西派一刀流を学びましたが、1922年には単身で武者修行の旅に出ることとなります。この旅は彼にとっての試練であり、多くの経験を積むことになりました。しばらく後、彼は再度修道学院に戻り、「修道学院三羽烏」という称号を得るほどの腕前を身につけ、「白鬼」との異名を持つこととなります。

指導者としての道

1929年、乳井は高野の推薦により、宮城県仙台市の第二高等学校で剣道の師範に就任します。彼の教えを受けた多くの生徒たちは、その技術と精神を受け継ぎ、全国的にその名が知られるようになりました。特に教え子の千葉仁は、全日本剣道選手権大会で3回の優勝を果たし、その実力を証明しました。

第二次世界大戦後、乳井は仙台市立町に道場を開き、数多くの剣道部員が彼の下で修行をしました。彼の教えは、剣道だけでなく、その人生に対する姿勢にも影響を与えていました。また、彼の弟子たちも剣道界で活躍し、甥の友川紘一は警視庁剣道師範を務めました。

段位と称号

乳井は1936年に大日本武徳会から剣道教士号を授与され、その後1949年には高野佐三郎から剣道十段を授与されました。彼の段位は、彼の技術を裏付けるものであり、剣道界での地位を確立する一因となりました。

特徴とエピソード

乳井は大柄な体格を持ち、通常の竹刀よりも重い800gの竹刀を使用していました。毎朝、重い振り棒を振って鍛錬し、その力強さは弟子たちにも影響を与えました。試合では相手を圧倒する力強い突きを見せ、その技術で数多くの勝利を収めました。

また、二刀流においてもその技能は高く、彼から学んだ弟子たちも数々の成果を上げました。戦後の剣道がスポーツ化される中で、乳井はその方向性に対し厳しい批判を展開し、伝統的な剣道精神を守ることの大切さを説きました。彼は「婦女子がやる剣道」として指弾し、剣道を身体技術の研磨と捉えていました。

晩年と遺産

乳井は晩年、視力を失いながらも、剣道に対する情熱を失いませんでした。教え子の勝利を見届けながらも、その指導における理念は、弟子たちに今でも引き継がれています。彼の教えである「心眼」が具体的に示されたのは、千葉仁が優勝した際に乳井が示した助言です。その時、視力を失っていた彼がどのように判断したかは、彼の剣道精神の象徴といえるでしょう。

乳井義博の功績は、現在も日本の剣道界に深く根付いており、彼が残した精神や技術は、多くの剣道家たちに受け継がれていくことでしょう。

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