乾パン

乾パンとは

乾パンは、保存と携帯を目的として作られた、硬く焼き締められたビスケットの一種です。軍隊の保存食であるハードタック（堅パン）を基に、日本人の嗜好に合わせて作られています。

乾パンの歴史

堅パンの起源は非常に古く、ヨーロッパではローマ時代に兵糧として支給されていた記録があります。現在では非常食としての用途の他に、軍隊や登山者の携帯食料として用いられています。水分含有量が少ないため保存性に優れており、特に多くの食料品が凍結してしまうような低温下においても、常温とほとんど変わらない状態を維持できることから、寒冷地における重要な食料となっています。

日本における乾パンの始祖は、天保13年（1842年）に、韮山反射炉で有名な伊豆韮山代官、江川太郎左衛門担庵公が非常時に備え、保存できる軍用の携帯食としてパンを焼き始めたこととされています。当時、外国文化の導入に積極的だった水戸藩は「兵糧丸」、長州藩は「備急餅」、薩摩藩は「蒸餅」と名付けた軍用パンを作り、非常時に備えていました。

明治時代に入ると、大日本帝国[[陸軍]]が欧米の軍用ビスケットを改良し、携帯口糧として「重焼麺麭（じゅうしょうめんぽう）」と呼ばれるものが作られました。これは、現在の大型乾パンほどのサイズで、後に「乾麺麭（かんめんぽう）」と呼ばれるようになりました。昭和期にはさらに改良が重ねられ、味や形が現在の小型乾パンとほぼ同じものとなり、名称も「乾パン」となりました。

乾パンの特徴

乾パンは、小麦粉、砂糖、食塩、ショートニングなどにイーストを加えて発酵させた後、140-150℃で焼き上げられます。水分が少ないため、食感は最初は硬く、味気ないビスケットのようですが、よく噛むことで小麦の香ばしさと甘みが口の中に広がります。栄養価を高め、風味を向上させるために、黒ゴマを加えることもあります。

非常食用の乾パンには、平均2.3%ほどのベントナイトが添加されていることが多いです。ベントナイトは水分を含むと体積が増加する性質があり、満腹感を持続させ、腹持ちを良くする効果があります。また、缶詰の製品には、糖分を補うため、唾液を出しやすくする目的で、氷砂糖や金平糖が同梱されていることがあります。

乾パンは、飢餓や大災害、戦災に遭った国や地域への緊急援助物資としても送られることがあります。調理の必要がなく、飲料水がなくてもある程度食べられるため重宝されますが、状況によっては味の面で不評を買うこともあります。

日本陸軍における乾パン

1877年の西南戦争では、海軍の戦闘用糧食であった「ハードビスケット」を参考に、乾麺麭が非常糧食として採用されました。当初は、1食分2枚、計6枚が携行されました。

1890年には、肉入乾麺麭の試験が行われました。これは、牛肉を混ぜて焼き上げたもので、1枚100g、2枚で1食分でした。非常に硬く、食べるのに30-40分を要し、さらに大量の湯茶が必要だったため、日本人の味覚には合わず、連続して食べられるものではありませんでした。

1895年の日清戦争では、大型の乾麺麭が小型化されました。これは、主戦場となる中国大陸では水が不足していたため、水を必要とする糒（ほしい）の代替品として必要とされたためです。凮月堂に小型ビスケットの製造が指示され、生産が間に合わないため、地方の菓子屋も動員されました。

1904年からの携帯口糧試験では、栄養バランス、携行性、保存性、味、価格などが評価されました。西洋の陸軍では乾パンと同時にスープが提供されましたが、日本軍では汁類の配給が行われず、完全なビスケット食には移行しませんでした。

日露戦争後、重焼麺麭は「重傷」に通ずるとして嫌われ、乾麺麭に名称変更されました。また、品質改良が進められ、ヨーロッパ産の小麦粉や、粘度の高い国産小麦粉を使用するなど、さまざまな工夫が施されました。

大正期には、『戦用糧食品製造法大要』がまとめられ、携帯糧食の内容が整備されました。乾麺麭の規格は、小麦粉、米粉、胡麻、砂糖、食塩、馬鈴薯、ホップなどを原料とし、2個で1食、60個を木箱に収容すると定められました。しかし、大型で非常に硬く、食べづらかったとされています。

1931年には、ドイツ軍のハードビスケットを参考に、小型化され、1食225g、金平糖が同封されました。これらは袋に包装され、日中戦争以降、一般にも販売されるようになりました。

自衛隊の乾パン

自衛隊では、大形と小形の2種類の乾パンが採用されています。

大形は、海上[[自衛隊]]で採用されており、表面に15個の針穴があります。10枚1包で1食とし、オレンジスプレッドも配布されます。

小形は、陸上自衛隊と航空自衛隊で採用されており、表面に2個の針穴があります。陸上自衛隊の戦闘糧食I型では、150gの乾パンと15gの金平糖を主食とし、オレンジスプレッドとソーセージ缶を副食としています。戦闘糧食II型では、オレンジスプレッドがなくなり、ツナサラダが副食に追加されています。

まとめ

乾パンは、その歴史や用途、種類など、さまざまな側面から見ることができる興味深い食品です。非常食としてだけでなく、登山などの携行食としても利用できるため、常備しておくと役立つでしょう。

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