非常食

非常食とは

非常食とは、地震や水害、紛争などの緊急事態によって通常の食料の入手が困難になった際に、生命を維持するために備蓄しておく食料のことです。かつては、飢饉や災害時に山野で採取できる、普段は食べない植物を指す言葉でしたが、現在では、災害や遭難時に備える保存食全般を意味するようになりました。

非常食の概要

非常食は、平時から備蓄・管理され、有事の際に配給・消費されます。そのため、常温で長期保存が可能で、特別な調理を必要とせず、すぐに食べられるものが中心です。具体的には、アルファ化米、乾パン、缶詰、レトルト[[食品]]、インスタント食品などが挙げられます。これらの食品は、電力、ガス、水道などのライフラインが途絶した場合でも、安全に飲食できることが重要です。

近年では、スーパーマーケットなどで日常的に購入できるミネラルウォーター、缶詰、レトルト[[食品]]、インスタント食品の中にも、1～2年程度の賞味期限を持つものが増えてきました。そのため、大規模災害が予想される地域では、家庭での備蓄が進んでいます。また、防災用品として、保存性を高めた特殊な非常食も市販されています。これらは、窒素ガスを充填した缶詰など、賞味期限を長くするために工夫されたものが多く、個人でも手軽に購入・備蓄できます。

災害発生が予測される地域では、国や地方自治体が、住民保護の観点から防災倉庫に一定量の非常食を備蓄しています。しかし、食品であるため、賞味期限切れによる劣化は避けられません。そのため、定期的に新しいものと交換する必要があり、多くの場合、期限切れ前の非常食は、災害訓練での炊き出し演習や、啓蒙活動のためのサンプルとして活用されています。また、近年では、納入業者が定期的な納品と回収を行い、非常食を循環させるサービスも登場しています。

非常食の思想

非常食は、ライフラインや物流が途絶え、食料の調達や調理が困難になった状況下で使用されます。日本では、災害発生後、国や地方自治体からの公的な支援物資が末端住民に届くまで、2～3日程度かかることが想定されています。大規模な災害の場合、さらに時間がかかる可能性もあります。その間は、各個人や集団が、独自に確保した水と食料でしのぐ必要があります。2005年のハリケーン・カトリーナの際には、一部の地域で、住民が2週間ほど自力で生活せざるを得ない状況になりました。その結果、食料品店での略奪が発生するなど、社会的な混乱も生じました。

人は水さえあれば、食料がなくても3週間から1ヶ月程度は生きることができます。しかし、そのような状況では体力が消耗し、病気にもかかりやすくなります。災害時には、衛生環境も悪化し、伝染病が発生するリスクもあります。そのため、非常時には衛生的な水と食料を確保することが非常に重要です。

東海地震などの被害が予測される地域では、各家庭で3日分の食料と水を備蓄するよう、地方自治体から住民に呼びかけられており、条例で義務付けている自治体もあります。また、帰宅困難者対策として、事業者にも非常食の備蓄が求められています。

循環備蓄法

大量の非常食を一度に備蓄するのは現実的ではありません。そこで推奨されているのが、循環備蓄法です。これは、日常的に購入する保存食を、消費しながら常に一定量を備蓄する方法です。古いものから順に消費していくことで、賞味期限切れの問題を回避できます。また、保存食の多くは加熱や調理が必要なため、カセットコンロとカセットボンベも一緒に備蓄しておくことが推奨されています。

さらに、日常的に使用する保存食、飲料水、ウェットティッシュ、カセットボンベ、乾電池、使い捨てカイロなども、一定量を家庭に常備しておくことが望ましいとされています。

栄養の偏りとメニューの問題

同じものを食べ続けると、栄養が偏り、飽きてしまいます。そのため、非常食を準備する際には、栄養バランスを考慮し、メニューのバリエーションを増やすことが重要です。市販の非常食の中には、様々なメニューを組み合わせたセットも販売されています。これらの製品を活用することで、非常時でも飽きずに食事をすることができます。

非常食の配布

非常食は、国、地方自治体、組織、家庭などで備蓄されていますが、災害現場では、運搬や配布の際に混乱が生じることもあります。そのため、有事における配布方法をマニュアル化し、周知徹底しておく必要があります。

一般商店に陳列・保管されている食料品も、緊急時には非常食として周辺住民に供給されることがあります。これらは、政府や自治体の要請を受けた商店が在庫を放出する場合（代金は政府や自治体が支払う）と、商店側の厚意で無償配布される場合があります。しかし、災害時には社会的混乱が生じやすく、暴動や略奪が発生する可能性があります。そのため、配布する側も、受け取る側も、冷静な行動が求められます。

被災地では、地元の自治会や民間の救援団体、ボランティア団体などによって炊き出しが行われることもあります。これは、被災者自身や、被災状況を知った人々の善意によって行われるものであり、受け取る側にもある程度の社会秩序が求められます。

その他配布の状況

災害支援型自動販売機：災害発生時に、通信ネットワーク技術を活用し、遠隔操作で災害情報を表示したり、自動販売機内の飲料を無償で提供したりする機能を持つ自動販売機です。主な飲料メーカーが、全国に設置を進めています。

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