乾杯 (アルバム)

長渕剛3作目にして代表作『乾杯』：音楽性と背景、そしてその後の軌跡

1980年9月5日、日本のシンガーソングライター、長渕剛の3枚目のオリジナルアルバム『乾杯』がリリースされました。前作『逆流』から約10ヶ月ぶりとなる本作は、長渕剛自身初のセルフプロデュース作品であり、彼の音楽人生における大きな転換点を示す作品として知られています。作詞・作曲は全て長渕剛自身の手によるもので、編曲には瀬尾一三や青木望といった実力派ミュージシャンが参加しています。

前作『逆流』からの変化と「長渕流フォーク」の完成

前2作で自身の音楽性とのギャップを感じていた長渕剛は、本作で自らプロデューサーの座に就きました。長渕剛自身の強い意志が反映された本作は、「長渕流フォーク」の集大成として、彼自身の音楽的な自信と確固たる意思が感じられる作品となっています。長渕剛自身もこの作品をもって「長渕流フォークは完成した」と語っており、その完成度の高さがうかがえます。

シングル「順子」の大ヒットとテレビ出演への葛藤

『逆流』に収録されていた「順子」は、1980年に福岡、高知、福島など各地で有線リクエストチャートで上位にランクイン。シングル化を望む声が多数寄せられましたが、長渕剛は当初、「メッセージフォーク」としての自身の音楽性を重視し、シングルカットには消極的な姿勢を示していました。しかし、多くの要望を受け入れ、「長渕流フォーク」の浸透を図る上でシングルカットは有効だと判断。1980年6月、「涙のセレナーデ」との両A面シングルとしてリリースされると、大ヒットを記録し、オリコンチャートで8週連続1位を獲得、ミリオンセラーとなりました。

この大ヒットを受け、各テレビ局から出演依頼が殺到します。しかし、全国各地をライブツアーで回り、すでに「長渕流フォーク」が浸透していると判断していた長渕剛は、テレビ出演の必要性を感じていませんでした。それでも、身体障害者からの「コンサート会場に足を運べない」という手紙がきっかけとなり、人気音楽番組『ザ・ベストテン』への出演を承諾します。番組出演を通して、テレビというメディアに対する自身の考えや葛藤が生まれながらも、関係者からの後押しもあり、番組に出演し、「順子」を演奏。その独特のパフォーマンスと発言は、話題を呼び、注目を集めることになります。

アルバム『乾杯』の音楽性と収録曲

『乾杯』は、世の中の流れに逆らって自らの道を突き進む人々への応援歌とも捉えることができる作品です。収録されている楽曲は、アコースティックギターを基調としたフォークソングから、バンドサウンドを取り入れた楽曲まで幅広く、長渕剛の音楽的な多様性が反映されています。特にアルバムのラストを飾る「乾杯」は、多くの人に歌い継がれる名曲となりましたが、この時点ではシングルとしてはリリースされていませんでした。後に、1988年に「乾杯 -NEW RECORDING VERSION-」としてシングルカットされています。また、本作にはシングル「春待気流」は収録されていません。一方、後にシングルカットされた「ヒロイン」は本作に収録されています。

音楽情報サイト『CDジャーナル』では、「世の中の不条理を知り、もがき苦しむ姿が歌詞に投影された哀切漂う作品。ラストを飾った『乾杯』は名曲として多くの人々に歌われている」と評価されています。また、専門誌では、アコースティックギター演奏や楽曲構成について、ライブ活動での経験が反映されているとの指摘もあります。

レコーディングと参加ミュージシャン

レコーディングには約1ヶ月を費やし、長渕剛自身も前2作以上の満足感を得たと語っています。多数のミュージシャンが参加し、それぞれの演奏が楽曲に深みと彩りを添えています。ドラムスには今泉正義、ベースには武部秀明、岡沢茂、ギターには石川鷹彦、長渕剛自身、徳武弘文らが参加。その他、キーボード、ストリングス、アコーディオン、バンドネオン、トランペットなど、多彩な楽器が使用され、楽曲に豊かな表情を与えています。

リリースとプロモーション、そしてチャート成績

1980年9月5日に東芝EMIのエキスプレスレーベルよりLPとカセットテープでリリースされ、その後CD、24ビット・デジタルリマスター盤など様々な形態でリリースされ続けています。オリコンチャートでは最高位1位を獲得し、約29万枚を売り上げました。

まとめ

『乾杯』は、長渕剛の音楽家としての成長と確固たる信念を示した作品であり、彼の代表作の一つとして、現在も多くのファンに愛されています。セルフプロデュースという挑戦、そして「順子」の大ヒット、テレビ出演など、様々な出来事が重なり、音楽性と表現方法を確立した重要なアルバムと言えるでしょう。その後の彼の活動の礎となった作品として、音楽史に名を残す一枚です。

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