乾球温度

乾球温度（かんきゅうおんど）

概要

乾球温度とは、湿乾温度計（乾湿計）と呼ばれる測定器具において、乾球側が示す温度を指します。これは、空気そのものが持つ熱エネルギーによって決まる基本的な温度であり、一般的に私たちが日常会話で「気温」と呼んでいるものに相当します。湿乾温度計は、この乾球と、水で湿らせた布を巻き付けた湿球の二つを備えており、湿球は水分の蒸発による冷却効果を受けた温度を示します。乾球温度は、この湿球温度や他の環境要素と組み合わせることで、湿度、露点温度、体感温度、さらには熱中症リスクを示す暑さ指数（WBGT）といった多様な指標を計算する上での出発点となります。

詳細な定義と測定方法

乾球温度の測定は、湿球のように水分蒸発による冷却の影響を一切受けない状態で行われます。乾湿計の乾球は、通常のガラス製液柱温度計や電気式温度センサーなどが使用され、周囲の空気に直接さらされる形で配置されます。これにより、空気分子の運動エネルギーの平均的な状態、すなわち「温度」を純粋に捉えることができます。これは、大気の状態を把握するための最も基本的かつ重要なデータの一つです。

記号として、乾球温度は小文字の「t」で表されることがあります。単位はセルシウス度（℃）が広く用いられますが、特に乾球温度であることを明確に示すために「℃(DB)」や「℃DB」といった表記が使われることもあります。ここで付記されるDBは、英語で乾球を意味する「Dry Bulb」の頭文字です。

関連する温度概念

乾球温度は、環境の温熱条件を総合的に評価する際に、他の様々な温度概念と対比または組み合わせて用いられます。

湿球温度（Wet-Bulb Temperature）

乾球温度と密接に関連するのが湿球温度です。湿球は常に水で湿らせた状態に保たれており、布からの水分の蒸発によって熱が奪われることで温度が下がります。この冷却効果は空気中の湿度に依存し、湿度が低いほど蒸発が活発になり、湿球温度は乾球温度よりも大きく下がります。湿球温度は空気の「湿り具合」を示す指標であり、乾球温度との差（湿球差）から相対湿度や露点温度を求めることができます。

露点温度（Dew Point Temperature）

露点温度とは、現在の乾球温度と湿度を持つ空気を、圧力一定のまま冷やしていったときに、空気中の水蒸気が凝結して水滴（露）ができ始める温度です。乾球温度と湿球温度の値から換算することができ、空気が含むことのできる最大限の水蒸気量（飽和水蒸気量）との関係を示す指標となります。露点温度が高いほど、空気中に多くの水蒸気が含まれていることを意味します。

放射温度（Radiant Temperature）とグローブ温度（Globe Temperature）

これらの温度は、空気の温度だけでなく、周囲の壁や天井、窓、太陽などからの放射熱の影響を考慮した指標です。放射温度は周囲の各表面から放射される熱エネルギーの平均的な温度を示し、グローブ温度（黒球温度とも呼ばれる）は、中心に温度計を置いた黒く塗られた球体が受ける放射熱と対流熱のバランスによって示される温度です。特に屋外や、屋内で窓際や冷暖房の吹き出し口付近など、放射熱の影響が大きい環境での体感温度や熱ストレスを評価する際に重要となり、乾球温度だけでは捉えきれない温熱環境を評価する上で欠かせない概念です。

乾球温度の応用分野

乾球温度は、単なる気温の観測値としてだけでなく、以下のような多岐にわたる分野で基礎データとして活用されています。

気象学: 気温として基本的な気象観測データとなります。
建築・空調工学: 快適な室内環境を実現するための空調設備の設計、運転管理において最も重要な要素の一つです。冷暖房負荷の計算や、湿り空気の状態変化をグラフ化した空気線図（湿り空気線図）上でのプロセス解析に必須です。
産業: 様々な製造プロセスにおける温度管理や環境制御に利用されます。
衛生工学・環境科学: 温熱環境の評価、快適性指標（例：PMV - Predicted Mean Vote）の算出、熱中症リスク評価などにおいて乾球温度は不可欠な要素です。
* 熱中症対策: 熱中症の危険度を示す暑さ指数（WBGT - Wet Bulb Globe Temperature）を算出する際、湿球温度や黒球温度とともに乾球温度も考慮されます（特に屋内や日射の弱い屋外で重要視されます）。

このように、乾球温度は空気の基本的な熱的状態を示す指標として、私たちの生活空間や産業活動、さらには健康管理に至るまで、幅広い分野でその重要性が認識されています。他の温熱環境因子と合わせて理解することで、より総合的な環境評価が可能となります。

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