亀山発電所

亀山発電所

かつて広島県安佐郡亀山村大字今井田（現在の広島市安佐北区）に所在した亀山発電所は、1912年（明治45年）から1973年（昭和48年）にかけて運用された水力発電施設です。太田川水系において最初に建設された大規模発電所であり、本流に設けられたものとしても先駆け的な存在でした。

発電所の建設と初期広島の電力事情

日本の電気事業が黎明期を迎える中、広島でも1889年（明治22年）に広島電灯が設立され、小規模な火力発電が開始されました。しかし、電力需要の増加に対応するため、広島太田川電力株式会社が設立され、亀山発電所の建設が進められます。1910年（明治43年）10月に着工し、1912年（明治45年）6月に竣工、同年7月には運転を開始しました。

当初出力2,100キロワットの亀山発電所は、当時の広島市全体の電力需要を賄える規模を持ち、それまで稼働していた火力発電所はその役目を終えました。これ以前に太田川水系の支流で小規模な水力発電はありましたが、本発電所は規模・影響力において段違いでした。

地域電化と社会への影響

亀山発電所の稼働は、広島地域の電化を大きく加速させました。電気料金の引き下げと供給エリアの拡大が進み、照明だけでなく動力用としても電気が使われるようになりました。広島市に路面電車が開業したのは、発電開始からわずか4ヶ月後のことでした。同時期には、広島近郊の他の河川でも水力発電所の建設が進められています。

構造と技術的特徴

発電所は太田川の中流域、市中心部から約12キロの蛇行地点に位置しました。水路式を採用し、上流に設けられた堰から取水した水を、全長約2.82キロメートル（うちトンネル約380メートル）の導水路で発電所へ送りました。有効落差約13.57メートルを利用し、最大約28立方メートル毎秒の水量で、3基のフランシス水車と700キロワットのウエスチングハウス製発電機を稼働させました。定格出力は当初2,100キロワットでした。

60年の稼働と困難、そして停止

亀山発電所は60年間にわたり稼働しましたが、太田川の洪水に度々見舞われ、建屋が浸水する被害も経験しました。建物の壁には過去の洪水水位を示す印が刻まれており、水害との戦いの歴史を物語っています。また、渇水による出力低下も運用上の課題でした。

施設の老朽化、河川流量の不安定さ、採算性の悪化などが重なり、1972年（昭和47年）7月の豪雨による水害が決定的な要因となり、発電所は翌1973年（昭和48年）3月に操業を停止しました。停止後、建物は太田川漁業協同組合の事務所として利用されました。上流の堰堤は撤去されたものの、建屋や導水路の一部は残存しました。

建築様式と解体へ

建物はレンガ造りで、瓦葺きの屋根と縦長のアーチ窓が特徴的でした。腰壁が高く窓が小さめなのは、度重なる水害への対策だったと考えられています。

長らく組合事務所として利用されてきた建物ですが、隣接する県道の拡幅工事に伴い、2024年（令和6年）1月26日に解体が正式に決定されました。広島の近代化に貢献した歴史ある建物は、その役割を終えることとなりました。

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