予想平均温冷感申告

予想平均温冷感申告（PMV）

予想平均温冷感申告（Predicted Mean Vote、略称：PMV）とは、人がその環境でどのような温熱感覚を覚えるかを予測し、数値で示す指標です。これは、単なる気温だけでなく、人間の生理的な状態や周囲の環境要因を多角的に評価することで、より実態に近い熱的な快適性を把握することを目的としています。

この指標は、1967年にデンマーク工科大学のオレ・ファンガー教授によって提唱されました。彼は、多数の被験者を用いた実験に基づき、人が感じる温熱感覚と様々な物理的・生理的要因との関係を定量的に分析しました。その結果、これらの要因から算出される単一の指標によって、集団の平均的な温熱感覚を高い精度で予測できることを示しました。

PMVの算出にあたっては、合計六つの要素が考慮されます。まず、熱環境を構成する四つの物理的要素です。

1. 気温（Air Temperature, Ta）：周囲の空気の温度。
2. 湿度（Relative Humidity, RH）：空気中に含まれる水蒸気の量。
3. 風速（Air Velocity, Va）：人体の周囲を流れる空気の速度。
4. 熱放射（Mean Radiant Temperature, Tr）：周囲の壁や窓、設備などからの放射熱の影響を代表する温度。

これに加え、人体側の二つの生理的要素も考慮されます。

1. 代謝量（Metabolic Rate, M）：人間の活動レベルによって発生する体内の熱量（例えば、座位安静時は約1 met）。
2. 着衣量（Clothing Insulation, Icl）：身につけている衣服の断熱性能（例えば、薄着なら約0.5 clo、厚着なら約1.0 clo）。

これらの六つの要素を入力として、特定の計算式を用いてPMVが算出されます。

PMVの値は、通常マイナス3からプラス3までの尺度で表現されます。この尺度の意味は以下の通りです。

+3: 非常に暑い (Hot)
+2: 暑い (Warm)
+1: やや暑い (Slightly warm)
0: 熱的中立 (Neutral) - 暑くも寒くもない快適な状態
-1: やや寒い (Slightly cool)
-2: 寒い (Cool)
* -3: 非常に寒い (Cold)

したがって、PMVが0に近いほど、多くの人が快適だと感じる熱環境であると予測されます。ただし、この指標はあくまで一般的な予測であり、個人の感覚や体調によっては異なる場合があります。また、非常に高温多湿あるいは低温乾燥といった極端な環境条件下では、PMVが必ずしも適切に温熱感覚を反映しないこともあります。

ファンガー教授は、PMVの値と「予測不満足者率（Predicted Percentage of Dissatisfied, PPD）」との関係も同時に示しました。PPDとは、その環境に対して不満を感じると予測される人の割合です。PMVが0から離れるにつれて、PPDの値は増加します。国際標準化機構（ISO）では、温熱環境の推奨基準として、PMVが-0.5から+0.5の範囲内にあること、すなわちPPDが10%以下に抑えられるような環境が望ましいとしています。

PMVは、建築設計や空調設備の計画・運用において、居住者の快適性を科学的に評価・改善するための重要なツールとして広く利用されています。計算式自体は以下の基本形に基づきますが、実際にはより詳細な計算過程が必要です。


PMV = (0.303e−0.036M + 0.028)L
L: 人体の熱負荷 [W/m2], M: 代謝量 [W/m2]


このように、PMVは人間の温熱快適性を客観的に評価するための強力な指標であり、より快適な室内環境の実現に貢献しています。

もう一度検索