二宮邦次郎

明治から大正にかけての日本で、牧師そして教育者として多大な功績を残した人物に、二宮邦次郎（にのみや くにじろう）がいます。彼は安政7年1月2日（1860年1月24日）に生まれ、大正15年（1926年）9月7日にその生涯を閉じるまで、キリスト教の伝道と人材育成に情熱を注ぎました。

邦次郎は、備中松山藩士であった片貝正倫とヨシ夫妻の子としてこの世に生を受けましたが、後に藩医である二宮英庵の養子となりました。幼少期から勉学に励んだ彼は、1876年（明治9年）4月に岡山師範学校を卒業し、小学校の教壇に立つことになります。

教員として働く傍ら、当時の社会の動きに敏感であった邦次郎は、自由民権運動の演説会などにも積極的に参加していました。そんな彼の人生に大きな転機が訪れたのは、同志社を創設した新島襄や、金森通倫といった著名なキリスト教伝道者たちが岡山を訪れ、福音を伝えたことでした。彼らの真摯な姿と教えに触れた邦次郎は深く感銘を受け、1880年（明治13年）には岡山教会で新島襄から直接洗礼を受ける決心をします。これにより、彼はキリスト教の信仰の道を歩み始めることとなるのです。

洗礼を受けた後、邦次郎は神学を学ぶため、京都にある同志社の速成邦語神学科に進みました。ここで研鑽を積んだ彼は、卒業後に牧師としての活動を開始します。まず、1882年（明治15年）には、郷里に近い高梁の地に高梁教会を設立するために尽力しました。その後は、美作落合教会の二代目牧師として、地域の人々に福音を伝えました。

活動の場はさらに広がり、愛媛県の今治教会へと転任しました。ここでは、横井時雄牧師と共に松山での伝道活動にも力を注ぎ、その結実として、1885年（明治18年）には今日の日本基督教団松山教会へと繋がる松山第一基督教会を設立しました。これは、四国地方におけるキリスト教伝道の重要な拠点の一つとなります。

教会設立に留まらず、教育分野にも強い関心を持っていた邦次郎は、その翌年である1886年（明治19年）には、現在の松山東雲学園の前身となる松山女学校を設立し、自ら初代校長を務めました。これは、当時の女子教育の機会が限られていた時代において、非常に先進的な取り組みでした。また、彼はコーネリア・ジャドソンや西村清雄らが創設した松山夜学校（現・松山学院高等学校）の設立にも協力するなど、地域の教育振興に幅広く貢献しました。

1901年（明治34年）、邦次郎は松山第一基督教会から休暇を得て、全国各地を巡る巡回伝道の旅に出ました。この休暇期間が明けても彼は松山には戻らず、その後、東京の京橋教会（現在の日本基督教団行人坂教会）の牧師を1920年（大正9年）まで務めました。

晩年、1926年（大正15年）7月には、長男が勤務していた大連を訪問し、その帰途に、かつて自身が設立に尽力した松山教会と松山女学校に立ち寄りました。しかし、東京に戻った直後、長年患っていた脳溢血が再発し、同年9月7日に帰らぬ人となりました。彼の墓所は東京の多磨霊園にあります。二宮邦次郎は、牧師として多くの人々に信仰の道を指し示すと共に、教育者として次世代の育成にも力を尽くし、明治・大正期の日本の社会に大きな足跡を残した人物と言えるでしょう。

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