二本鎖RNAウイルス

二本鎖RNAウイルス（dsRNAウイルス）は、その名の通り、二本鎖のリボ核酸（RNA）を遺伝情報として保持するウイルスのグループです。この独特なゲノム構造を持つウイルスは、様々な生物に感染することが知られています。

ゲノムの複製と転写

dsRNAウイルスは、自らが持つRNA依存性RNAポリメラーゼ（RdRp）という特殊な酵素を使って、ゲノムの複製や転写を行います。ゲノムから転写されたプラス鎖RNAは、細胞内でそのままメッセンジャーRNA（mRNA）として機能し、宿主細胞のリボソームを利用してウイルスタンパク質が合成されます。

分類

dsRNAウイルスは、ウイルスの分類学において、主に「デュプロルナウイルス門」と「デュプロピウイルス綱」という二つの大きなグループに分けられています。これらは、リボウイルス域オルソルナウイルス界に属します。興味深いことに、これらのグループは、共通のdsRNAウイルス祖先から進化したのではなく、それぞれが異なる一本鎖プラス鎖RNAウイルス（+ssRNAウイルス）から独自に進化してきたと考えられています。ウイルスのmRNA合成様式に基づいたボルティモア分類体系では、dsRNAウイルスは第III群に位置づけられています。

多様性

dsRNAウイルスは非常に多様性に富んでいます。感染する宿主は、動物、植物、菌類、そして細菌に至るまで広範囲に及びます。また、ゲノムの構造も様々で、ゲノムが複数の断片に分かれている場合、その数は1つから最大12個までと大きく異なります。ウイルスの粒子（ビリオン）の構造も多様で、カプシドと呼ばれる外殻の対称性や層の数、あるいは「タレット」と呼ばれる突起の有無など、様々な形態が見られます。

このグループには、乳幼児の急性胃腸炎の主要な原因ウイルスとして世界的に知られるロタウイルスや、ウシやヒツジに深刻な経済的被害をもたらすブルータングウイルスといった重要な病原体が含まれています。レオウイルス科は、dsRNAウイルスの中で最も大きなグループであり、宿主範囲の多様性においても特に注目されています。

デュプロルナウイルス門

大部分のdsRNAウイルスがこの門に含まれます。真核生物に幅広く感染するレオウイルスや、唯一知られている原核生物（細菌）に感染するdsRNAウイルスであるシストウイルスなどが含まれます。この門のウイルスは、RdRpに加えて、60個のホモまたはヘテロ二量体カプシドタンパク質からなる擬T=2対称性の二十面体形カプシドを持つという共通点があります。この門は、Chrymotiviricetes（主に菌類・原生動物）、Resentoviricetes（レオウイルス）、Vidaverviricetes（シストウイルス）の3つの綱に further 分類されます。

デュプロピウイルス綱

デュプロピウイルス綱はピスウイルス門の一部であり、この門には+ssRNAウイルスも含まれます。デュプロピウイルス綱のウイルスは、主に植物や菌類に感染します。この綱には、アマルガウイルス科、ハイポウイルス科、パルティティウイルス科、ピコビルナウイルス科の4つの科が属しています。

主要なdsRNAウイルスの例

様々なdsRNAウイルスの中でも、特に研究が進んでいるものや病原体として重要なものがいくつかあります。

レオウイルス科: 現在9つの属に分類され、ゲノムは通常10から12個のdsRNA断片から成ります。非エンベロープ構造を持ち、多層の二十面体カプシドが特徴です。カプシド内でdsRNAを転写できるため、必要な酵素はビリオン内に含まれます。
オルソレオウイルス: レオウイルス科の代表的な属で、多くの種がタレット構造を持ちます。哺乳類レオウイルス（MRV）は特に詳細な構造解析が行われています。
サイポウイルス: 細胞質多角体ウイルス（CPV）と呼ばれ、単層カプシドを持ちます。高い安定性と内因性のRNA転写・プロセシング能力を持ちます。
ロタウイルス: レオウイルス科に属し、11個のdsRNA断片をゲノムに持ちます。乳幼児の重症胃腸炎の主因です。
ブルータングウイルス: レオウイルス科オルビウイルス属。節足動物を介して反芻動物に感染する病原体です。構造と機能がよく解析されています。
ファイトレオウイルス: 植物に感染するレオウイルスで、タレットを持ちません。イネ萎縮ウイルス（RDV）などが含まれます。
出芽酵母L-Aウイルス: 酵母に感染し、細胞質の混合によって伝播します。サテライトRNAであるM dsRNAを複製・封入する機能を持っています。
伝染性ファブリキウス嚢病ウイルス（IBDV）: ビルナウイルス科。2分節のdsRNAゲノムを持ちます。単層の二十面体カプシド構造が特徴です。
* バクテリオファージφ6: シストウイルス科。細菌に感染するウイルスで、珍しく脂質膜を持ちます。

抗ウイルス戦略

細胞は通常、内部でdsRNAを作り出すことはありません。そのため、細胞内にdsRNAが存在すると、それを異物として認識し、分解するような防御システムが進化してきました。Dicerと呼ばれる酵素などがその一例です。この細胞側のdsRNA認識・分解システムは、dsRNAウイルスに対する広域抗ウイルス薬の開発につながる可能性が期待されています。

dsRNAウイルスは、その多様な形態と生態、そして病原性から、ウイルス学研究において重要な対象となっています。

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