二陪織物

二陪織物（ふたえおりもの / ふたべおりもの）

「二陪織物」は「二重織物」とも表記される、日本の伝統的な高級織物です。その最大の特徴は、文字通り二重に構成された紋様表現にあります。

まず、生地の全面には、亀甲や唐草といった連続した幾何学模様が地紋として緻密に織り出されます。これは生地全体の基礎となる模様層です。その上に、地の色とは対照的な、あるいはより鮮やかな色糸を用いて、丸文や花鳥文といった独立した紋様が飛び飛びに配置されます。この後から重ねて織り込まれる紋様を「上紋（うわもん）」と呼びます。この二層にわたる精緻で立体感のある紋様構成こそが、「二陪」すなわち二重の織物たるゆえんであり、その絢爛たる美しさの源泉となっています。

織りの技法

二陪織物の織り方にはいくつかの技法が見られます。

一般的な技法: 通常、地紋は「浮織物（うきおりもの）」で構成されます。これは、生地の表面に緯糸（よこいと）の一部を浮かせることで模様を表す技法です。その上に織り出される上紋には、「絵緯（えぬき）」という特別な色糸が使用されます。絵緯は、織物の基本組織を構成する経糸（たていと）や緯糸とは異なり、紋様を表すためだけに織り込まれる補助的な色糸です。この絵緯もまた、浮織の手法によって生地表面に浮かび上がるように織り込まれます。
まれな技法: 例外的に、地紋を緯糸を浮かせることなく硬く密に織り込む「堅織物（かたおりもの）」で制作する場合もあります。
関連技法:
沈め織（しずめおり）: 地紋と上紋の両方を堅織物で仕上げたものは、二陪織物とは区別して「沈め織」と呼ばれることがあります。
* 唐織物（からおりもの）: 地紋がなく、絵緯によって紋様のみが織り出された織物は、鎌倉時代以降に「唐織物」と呼ばれるようになりました。これが、後に能装束の代表的な生地である「唐織」へと発展していくことになります。

これらの技法の多様性は、時代や用途に応じて二陪織物が様々な表現を追求した結果と言えるでしょう。

歴史と用途

二陪織物は、日本の古典的な織物の中でも比較的古い歴史を持ち、平安時代以降の文献にその存在が見られます。主に貴族社会、特に高貴な身分の女性たちの間で大変珍重され、愛用されました。その華やかさと希少性から、権威や財力を示す象徴的な織物であり、主君が家臣である女房たちに同じ織物の装束を与え、皆で着用するといった「お仕着せ」にも用いられた記録が残っています。

しかし、二陪織物のような豪華な織物は、しばしば時代の権力者によって「奢侈（しゃし）禁制」、すなわち贅沢を禁止する法令の対象とされました。度重なる禁制により、二陪織物の使用は厳しく制限され、時には女房はもちろん、高貴な女性に至るまで、一切の使用が禁止された時期もあったほどです。こうした歴史は、二陪織物がいかに価値が高く、社会的な影響力を持つ織物であったかを物語っています。

具体的な使用例としては、女性の装束である唐衣（からぎぬ）、表着（うわぎ）、小袿（こうちぎ）などの主要な衣料に広く用いられました。また、興味深いことに、元服を迎える前の若い男子が着用する袴の一種である指貫（さしぬき）にも使われていたことが知られています。これらの用途は、二陪織物が男女を問わず、特に格式を重んじる場や通過儀礼に関わる場面で用いられる、極めて特別な織物であったことを示しています。

総じて、二陪織物はその複雑な構造と高度な織り技法、そして貴族社会における特別な地位によって特徴づけられる、日本の染織史上欠かせない重要な存在です。二重に織り重ねられた絢爛たる紋様は、当時の美意識と技術の粋を示しており、その歴史は単なる工芸品の発展に留まらず、社会制度や文化とも深く結びついています。

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