五月信子

五月信子：新派から映画界へ、輝きを放った女優

五月信子（さつき のぶこ、1894年2月13日 - 1959年7月21日）は、日本の女優であり、その芸名で広く知られています。彼女の功績は、新派劇から映画界への転身、そして創成期の松竹蒲田撮影所での目覚ましい活躍にあります。本名は御手洗忍（旧姓名・前川しのぶ）。

生い立ちと舞台への道

五月信子は、埼玉県北足立郡浦和町（現在のさいたま市）に生まれました。父親は浦和警察署の署長を務めていました。埼玉県立浦和高等女学校（現在の埼玉県立浦和第一女子高等学校）を卒業後、新劇の世界に足を踏み入れ、1915年に「新日本劇」に参加。初期には前川しのぶという本名で舞台に立っていましたが、1916年に五月信子の芸名を名乗り始めました。

「新日本劇」解散後、「日本座」に参加し、主演を務めるなど、その才能を発揮しました。その後も、「新演劇協会」や「女優劇」といった劇団で経験を積み、1918年には大阪松竹所属の「新劇団現代劇」（関西新派）の女優となりました。関西新派では幹部女優として活躍し、1919年には「新声劇」を結成するなど、精力的な活動を展開しました。

映画女優としての飛躍

1921年、五月信子は松竹キネマ蒲田撮影所の田口桜村に見出され、映画界へ。同年、『愛の骸』で銀幕デビューを果たします。その後、『悪夢』、『法の涙』などの作品に出演し、徐々にその名を知られるようになりました。1922年には、『金色夜叉』で演じた赤樫満枝役が高く評価され、ヴァンプ女優としての地位を確立。

川田芳子、栗島すみ子と共に、初期蒲田映画を代表する女性スターとして人気を博し、数々の作品で主演を務めました。特に、勝見庸太郎とのコンビは、多くの観客を魅了しました。1923年の関東大震災後、京都の下加茂撮影所に一時移籍しますが、翌年には蒲田に復帰。『嬰児殺し』や『灼熱の恋』などの代表作で、その演技力を高く評価されました。

さらなる挑戦と舞台への回帰

1924年、五月信子は帝国キネマに移籍し、その後東邦映画にも参加しますが、間もなく舞台へ復帰します。曾我廼家五九郎一座への参加や、夫である高橋義信との劇団「近代座」の結成など、舞台女優としての活動を再開しました。

「近代座」では、数々の作品を上演し、地方巡業も積極的に行いました。また、中央映画社に招かれ、『高橋お伝』でタイトルロールを演じるなど、映画界への貢献も続けました。

戦後と晩年

第二次世界大戦中は、「五月信子一座」を率いて東南アジアを巡業。戦後は芸能界を引退し、カトリック信者となりました。晩年は、夫との共演や映画出演など、細々と活動を続けました。

1959年7月21日、脳溢血のため逝去。65歳でした。

五月信子は、新派から映画界へ、そして再び舞台へと、様々な分野で才能を発揮した女優でした。彼女の功績は、日本の演劇・映画史に深く刻まれています。

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